シャイ・ライツ『A Lonely Man』


αステーションで放送されていた田島貴男のラジオ番組は残念ながら今年の3月に終了してしまいましたが、その中でシャイ・ライツ特集の回が非常に良くて、すぐさま当時は中心メンバーのユージン・レコードのソロを入手して聴いていました。

 

その後、シャイ・ライツの1stを手にしてからしばらく間があいて、今回は72年リリースの4作目を手にしています。これも非常にいい。

 

田島貴男の紹介の仕方は「全曲いいですね」といったとても熱っぽいものが多くて好きだったんですが、このシャイ・ライツもそんな感じで紹介していました。「Oh Girl」というヒット曲が入っているのが本作のポイントなんでしょうが、それ以外の曲も非常に良くて、やはり久々にコンプリート系のグループを発見したかな、という感じです。

 

やはりユージン・レコードというソングライターを抱えているのが大きいんでしょう。だから息が長いグループになったんだ、と田島貴男も話していました。その通りだと思います。

キャノンボール・アダレイ『Portrait of Cannonball』


58年録音作品。CDで購入したのでボーナストラックが3曲入っていますが、いずれも収録曲の別テイクです。この別テイクをオリジナルの収録曲の後に続けて収録している曲順となっていて、これはちょっと構成としてどうなんだろう、と思いながら聴いていました。

 

以前、チャーリー・パーカーの再発CDでも同じような構成に出会いましたが、ちょっと雑だなあ、などと考えていました。ただ、ジャズの場合、ある意味作品を聴くというより、参加メンバーとのセッションを聴く、といった風情でもあるので、実はさほど気にならない。ということで、結果的には楽しんで聴けました。

 

参加メンバーは非常に豪華です。

キャノンボール・アダレイ(as)

ブルー・ミッチェル(tp)

ビル・エヴァンス(p)

サム・ジョーンズ(b)

フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)

 

キャノンボールのサックスの音はとても快活で明るくて聴いていて元気が出ますが、ここではどの曲でもブルー・ミッチェルビル・エヴァンスのソロパートもきちんと設けられていて、楽しく聴くことができます。

 

マイルスが提供した「Nardis」という曲はビル・エヴァンスの演奏で何度も聴いていましたが、ここでのスローな展開での管楽器演奏バージョンも新鮮に聴こえました。

アート・ブレイキー『A Night At Birdland Vol. 2』


54年録音のアート・ブレイキーのライブ演奏。この翌年にジャズ・メッセンジャーズが結成されますので、まだアート・ブレイキークインテット名義での録音です。参加メンバーは豪華。

クリフォード・ブラウン(tp)

ルー・ドナルドソン(as)

ホレス・シルヴァー(p)

カーリー・ラッセル(b)

アート・ブレイキー(ds)

 

クリフォード・ブラウンとの共演をアート・ブレイキーが熱望してやっと叶ったステージでしたが、共演はこの瞬間のみで、クリフォード・ブラウンマックス・ローチとタッグを組んでいきます。そしてその後自動車事故で亡くなってしまう。そういった意味では世紀の瞬間を捉えた演奏です。

 

「ハード・バップの礎となった」という評価や「ジャズ・メッセンジャーズの基礎形を築いた」といった意味合いで語られている重要作ですが、基本的にはアート・ブレイキーの牽引するビートに乗って届けられる音は非常に衒いのない音です。裏表がない。

 

そしてその明るい感じが何となく自分が望む音ではないように思えてきたのも事実です。ジャズを聴き始めてから、ビル・エヴァンスリー・モーガンといったお気に入りのミュージシャンに出会うことができましたが、アート・ブレイキーは何となく名前で聴いているような気がして、今ひとつのめり込めません。これがどうしてなのか。答えはないかもしれませんが。

 

ということで、アート・ブレイキーは少し寝かせるかもしれないなあ、と今この瞬間は考えているところです。

リー・モーガン『Vol. 2』


56年録音のリー・モーガン2作目となります。参加メンバーは下記の通り。

リー・モーガン(tp)

ケニー・ロジャース(as)

ハンク・モブレー(ts)

ホレス・シルヴァー(p)

ポール・チェンバース(b)

チャーリー・パーシップ(ds)

 

リー・モーガンはその後も何度か聴き返していますが、『City Lights』という作品の「Just By Myself」という曲がとても印象に残っています。この作者がベニー・ゴルソンな訳ですが、本作でもベニー・ゴルソンの楽曲が多く収録されていて、これが非常にいい。

 

テーマが分かりやすいですし、リー・モーガンの演奏も非常に素直で爽やかな音を出しているので、聴こえてくる音楽がとてもノスタルジックに響いてきます。いつも何となく夕暮れの街並みのイメージが湧いてくるんですが、これが一種の郷愁のようなものなんでしょう。

 

バックの演奏もバッチリですが、何より曲がいいのがポイント。この作品も聴き返すことでまたいい心持ちになれると感じました。

マイルス・デイヴィス『Four & More』


64年録音作品。60年代中盤のマイルスの作品はこれまであまり聴いてこなかったので、新鮮に聴くことができました。参加メンバーは以下の通り。

マイルス・デイヴィス(tp)

ジョージ・コールマン(ts)

ハービー・ハンコック(p)

ロン・カーター(b)

トニー・ウィリアムス(ds)

 

演奏は凄いです。凄い凄いとは聞いていましたが、やっぱりトニー・ウィリアムスのドラムは決定的。そしてハービー・ハンコックのピアノも止まらない。演奏の速さが尋常ではないので、「So What」も「Walkin'」も「Four」も別物のように聴こえます。この変化にはやはり聴く側は驚いてしまうでしょう。

 

マイルスはやっぱり別格ですね。この60年代中期、主にトニー・ウィリアムスハービー・ハンコックが参加している演奏は端的にカッコいいので、これは聴き進めなければいけません。丁度『カインド・オブ・ブルー』と『ピッチェズ・ブリュー』の間が抜け落ちてしまっている訳ですが、ジャズの領域からギリギリ出ていっていない音が強烈なペースで鳴っている奇跡的瞬間なのだと思います。

ビル・エヴァンス『Another Time : The Hilversum Concert』


68年のモントルー・ジャズ・フェスティバルのライブ音源のみ存在していた、ジャック・ディジョネットがドラムで加入していた時期のピアノ・トリオの音源が発掘されている作品です。これともうひとつ『Some Other Time』というスタジオ録音盤が発掘されていますが、こちらはモントルーから1週間後のオランダでのスタジオ・ライブです。

 

これはやはり凄いですね。録音状態もとてもいいのでエディ・ゴメスの太いベースの音がどんどん前に出てきて聴こえますが、何といってもジャック・ディジョネットのドラムでしょう。ドラム・ソロは「Nerdis」でしか聴けませんが、これは凄かった。

 

モントルーでのライブで聴こえるジャック・ディジョネットのドラムの音は、まるで水が流れるかのような細かい音で紡ぎ出される独特のソロでしたが、ここでの音はそこに強さが加わっています。端的に音がいいからかもしれませんが、スネアのアタック音が鋭く強くて、まるで能楽での鼓の音のようです。

 

また、これも音がいいからなのか、音が鳴らない無音の空間が聴き取れることで、逆に細かな音の粒立ちが粗い粒子のようにひとつひとつ際立ってくるように感じました。これは流れるような音ではなく強い音です。

 

先日聴いた『Montreux Ⅱ』でもそうでしたが、ビル・エヴァンスのこの時期のピアノはとても躍動的です。静かな音というよりこちらもやはり強い音。メンバーにも触発されているのかもしれませんが、演奏全体として迫ってくる迫力があるように思います。この時期の作品もとてもいいですね。

アンディ・パートリッジ『My Failed Songwriting Career - Volume 2 EP』


アンディ・パートリッジの他人への提供曲(提供したが不採用だった曲)のセルフ・カバー集の第2弾が出ました。ちゃんと約束通り続けてくれているので嬉しい限りです。

 

今回も4曲収録されています。前回も感じましたが、やはり他人に提供することを前提に書かれているためか、若干楽曲がシンプルな出来になっているように思いました。XTC時代の目眩く複雑な展開には敢えてしていないのかもしれません。なのに不採用だなんて・・。

 

2曲目の「Let's Make Everything Love」はジャジーなアレンジで、『スカイラーキング』の「The Man Who Sailed Around His Soul」を思い出しました。36年の時を超えてシンクロするなんて何ということか。

 

楽曲のキレが今一つのような気もしますが、それはやはり贅沢というもの。コンスタントに新作をリリースしてくれているだけでありがたいと思わなければいけません。次も楽しみに待つことといたします。