トミー・フラナガン『Overseas』


娘が星野源を好きなので、関連の番組は欠かさず観ていたりするんですが、その中で触れていたのがこのトミー・フラナガンの作品と次に聴くクリフォード・ブラウンの作品でした。こちらは57年の録音。

 

星野源も触れていたのがエルヴィン・ジョーンズのドラムです。このブラッシングは確かに凄い。これを聴いてドラムのスティックを握ったそうですから、影響力はとてつもなく大きい。まあ実家がジャズ喫茶、という側面も多分にあるとは思いますが。

 

エルヴィン・ジョーンズコルトレーンのバンドでの演奏が有名ですが、コルトレーンタモリの影響で固定観念から全然聴いていませんので体験としてはまだまだ少ないです。たまにライブ映像がケーブルで流れるので耳に入ったりはしますが、きちんと向き合うのは初めてかもしれません。グルーヴがあっていいですね。

 

トミー・フラナガンのこの作品も星野源に紹介される前からウォント・リストに入ってはいたので、今回満を持して手に取りましたが、やっぱりオリジナルの「C」が並んだジャケットを探してしまいました。意外とないもんですね。少し残念ですが今回はこのコンプリート・バージョンの方で我慢します。

 

ちょっと呻き声が多いのが気になりますが、これは一体誰の声なんだろう。

アニタ・オデイ『Anita Sings The Most』


やっと聴けたアニタ・オデイの作品。『真夏の夜のジャズ』で見染めてからはや何十年。ここへ来て遂に作品にきちんと向き合いました。

 

本作は57年の録音で、『真夏の夜のジャズ』のニューポート・ジャズ・フェスティバルの前年になります。声や歌い方は映画と一緒。8曲目の「Them There Eyes」なんかは映画で聴ける「Tea For Two」のような早いペースとスキャットが登場します。

 

バックにオスカー・ピーターソン・トリオがついていて、この辺りも極上。最初にしては完璧な作品に出会えました。やっぱりいいなあ。ハスキーだし艶があって。これは少なくとも同時期の作品は聴き進めないといけません。

NRBQ『TOKYO』


96年の初来日公演を収録したNRBQのライブ盤。

 

ライブ作品についてはそれまでのアルバムの楽曲を知っていないと楽しめない側面もあって、一見さんお断り的な感じもするんですが、とはいえ聴き始めでライブを体験するリスナーもいるわけで、自分の場合はトッド・ラングレンの88年の来日公演なんかがそうでした。知らない曲ばかりなのと、耳に引っかかるいい曲の断片、それらをきっかけに何年もかかって聴き込んでいったり収録アルバムを探したりする。ライブにはそうした面も多分にあるような気がします。

 

この作品もやっと実現した来日公演ということもあって好事家が大興奮している雰囲気が伝わってきます。でも単純に楽曲がいいのと、シンプルな音が響いているので、ここから始めるのもありかな、と思います。

 

ライナーノーツに掲載されているカーネーションの直枝政太郎(当時)やヒックスヴィル嶺川貴子片岡知子長門芳郎といった面子を見るとNRBQの日本での位置付けが分かってくるような気がします。入口はそれでいいんですが、何より楽曲の魅力で推していって欲しい。さもないとカルト化してしまいます。もうしてるのかな。

アンディ・パートリッジ『My Failed Christmas Career Vol.1』


アンディ・パートリッジの他人提供曲ボツ集第3弾がリリースされました。今回はクリスマス・バージョンなので、タイトルがVol.3ではなくVol.1となっているのが一瞬紛らわしいですが、一連の作品集は第6弾まで出るといわれているので、これで半分まできたことになります。

 

今回は曲がいいですね。このシリーズになってこれが一番かもしれない。クリスマスの盛り上がりは欧米では特別なもので、日本のお正月のように欧米の人は年末にはさっさと休んでしまう。そしてクリスマスはこうしたさまざまな音楽が彩るイベントになるわけですが、XTCもやっぱりクリスマス関連の曲は多い。スリー・ワイズ・メンといった覆面バンドでのリリースもありました。

 

2曲目の「Trough This Winter World」ではポール・マッカートニーの「Dance Tonight」みたいなマンドリンがバックでずっと鳴っているし、3曲目の「Cool Yule」ではXTCの『Wasp Star』の頃のようなドラムの音が聴こえてきます。そしてラストの「Unwrap You At Christmas」では娘のホリー・パートリッジをボーカルに迎えて幸せそうな歌を奏でる。

 

ということでいい作品集なんですが、アンディ・パートリッジの発言は常にネガティブです。こんなにいいソングライターなのに何故なんでしょう。ジャケットは今回も日本語が一杯で、アンディの日本愛が伝わってきて嬉しくなりますね。

プリンス『Originals』


プリンスの他アーティストへの提供曲の原曲を集めたコンピレーション。何でこの作品を手に入れようと思っていたのか、すっかり忘れてしまいましたが、まあよくあることなので思い出しながら聴いていました。結局思い出せませんでしたが・・。

 

恐らくはシニード・オコナーへの提供曲「Nothing Compares 2 U」かなあ、とも思いますが聴いてみるとそうでもありませんでした。むしろ印象に残ったのは比較的有名なバングルスへの提供曲「Manic Monday」でしょうか。これはなかなかいいですね。バックでアコギが鳴っていて、とてもいい雰囲気です。世に出たのはかなりポップなアレンジが施されていますが、原曲の方は怪しげなコーラスもありつつ温かくてやっぱりポップ。これはなかなかいいですね。

 

楽曲がいいな、と感じたのはケニー・ロジャースに提供した「You're My Love」という曲。これは単純に曲がいい。逆に、この楽曲を提示されたらもらった方は困るだろうな、と思ったのは「Baby You're A Trip」という曲です。シャウトも含めて全面的にプリンス節で、これをどうやって自分のものにするのか、渡された方はさぞ悩んだだろうと思わせます。

 

シーラEへの提供曲が比較的多く収録されていますが、有名な「The Glamorous Life」は置いておいて、「Holy Rock」という曲が痛快でなかなかいい。プリンスのラップ、というより掛け声のような語りは非常にベーシックでカッコいいと思います。

マイルス・デイヴィス『Miles Electric : A Different Kind of Blue』


今週はラジオでジャズ・マイルスが放送されていました。その中で作家の平野啓一郎さんが小川隆夫さんの「マイルスの歴代のサックス・プレーヤーで3人選ぶとしたら」という質問に、コルトレーンウェイン・ショーターに加えてゲイリー・バーツを選んでいて、その理由に挙げていたのが70年のワイト島フェスティバルの演奏でした。

 

曲名を聞かれて「Call It Anything」とマイルスが答えたものがそのまま曲名となったエピソードは有名でしたので自分も知ってはいましたが、映像はきちんと観ていませんでした。番組でかかった演奏は「Spanish Key」のパートでしたが、元々この曲は大好きな曲でしたので、そのグルーヴに一発で耳が引っかかりました。ということで検索するとこのDVDが出てきて、結構な値段だったので諦めかけていたらメルカリで見つけた、という次第です。便利な世の中になりました。

 

ワイト島の演奏がフルで収録されていてとても見応えがあります。メンバーは下記の通り。

マイルス・デイヴィス(tp)

キース・ジャレット(org)

チック・コリア(p)

ジャック・ディジョネット(ds)

ゲイリー・バーツ(sax)

デイヴ・ホランド(b)

アイアート・モレイラ(per)

 

一見して思い出したのは『太陽と戦慄』の頃のキング・クリムゾンです。やはりパーカッションの印象が強い。とても楽しそうに演奏しています。ワイト島の観客は基本的にはロック・リスナーなので、マイルスの演奏はおそらくはプログレの一種として耳に届いていたんだと思います。もちろん映像にも出てくるサンタナの音楽にも共通点があるし、ラジオでSUGIZOさんがコメントしていたフランク・ザッパにも近い。自分もザッパからエレクトリック・マイルスに接近したようなところがあります。

 

それにしても当時の演奏メンバー全員にインタビューをとったのは凄い。2003年時点での映像ですが、当時のことを語る語り口はとても愛情に溢れていて生々しい。加えてハービー・ハンコックジョニ・ミッチェルのインタビュー映像も出てきます。なかなか見応えがありますね。

 

ジャック・ディジョネットをはじめ複数のミュージシャンがマイルスのモノマネをするのも可笑しい。特徴的で印象が強烈なんでしょう。エレクトリック・マイルスはジャック・ディジョネットのドラムにまずは惹かれましたが、なかなかやっぱりエレピの音もいいですね。キース・ジャレットは呻き声の印象しかありませんでしたが、ワイト島での演奏で首を回しながら恍惚感あふれる姿を見ていると、なかなか微笑ましい。一方のチック・コリアは悩める受験生のようです。

 

演奏中マイルスが右の人差し指をこめかみに当てる瞬間があって、この仕草が複数の時代の演奏シーンで見られます。これ、カッコいいですね。

高橋幸宏『IT'S GONNA WORK OUT 〜LIVE 82-84〜』disc 4 YUKIHIRO TAKAHASHI Live Selection 83-84

最後は映像集です。前半の83年のライブ映像はてっきり箱根の野外ライブでまとめているのかと思いましたが、渋谷公会堂の映像と交互に編集されているものでした。箱根の映像は当時録画して何度も観ていたので記憶に残っています。

 

ライブにおける立花ハジメの役割というのはマスコット的なもので、イギリスでいえばハッピー・マンデーズにダンサーのメンバーがいたのと同様、演奏はそこそこにダンスをしたりパフォーマンスをしたり、といった感じでステージにユーモアを与えている。もう少し演奏しているのかと思いましたが、そうでもないですね。でも微笑ましいと思います。ステージ衣装は素敵ですし。

 

箱根の映像で覚えているのは鈴木慶一の半ズボン姿と高校生のようなマッシュルーム・カット、それから「Sayonara」での立花ハジメのキーボード指2本弾き。そして綺麗な風景です。ここは箱根の映像で通してしまっても良かったんじゃないかな。

 

高橋幸宏は途中何度か顔をしかめる瞬間があって、神経質な一面を覗かせます。でも基本的に箱根の映像で遠くを見つめる視線からは、別のことを感じました。演奏したり歌ったりしながら実は全然違うことを考えていたんじゃないかな。何かをしながらふと見上げた風景が自然の綺麗なものだったりすると、その時していることと全く無関係に意識が飛んでいくことがあって、高橋幸宏の視線にもその瞬間を感じました。

 

後半は『WILD & MOODY』の頃のライブ映像ですが、冒頭のメンバーの呼び込みはまるでジャズ・メッセンジャーズのようですね。意識したんでしょう、きっと。ここではドラムにスティーヴ・ジャンセンが復活していますが、やっぱりJAPAN時代から続くスタイリッシュな叩き方、クールに素早い手の捌きで演奏する様子は非常にかっこいいです。ビジュアルもいいですね。

 

前半、後半どちらのライブにもゲストで細野晴臣がひっそりと登場しますが、どちらもファッションがカッコいいです。ただただ演奏しているだけですが非常に存在感がありますね。

 

とにかく高橋幸宏のライブは衣装や立ち姿も含めて全てがスタイリッシュで、非常に絵になるステージです。音楽とは別の格好良さがあって、鑑賞に耐えうるものとなっています。堪能させて頂きました。