「ビートクラブ」について

#本文は1995年3月の社内報に掲載されたものです。

 今回発掘された「ビートクラブ」は大変な代物であることは各方面で語られている。どういった事情で商品化されたかは知る由もないが、とても良心的なプロジェクトであったことは想像に難くない。是非また新たなる貴重音源の発掘、商品化を希望するものとして、その重要性と光ディスクの将来性を絡めて再評価したい。

 とにかく驚いたのは、キャプテン・ビーフハートリトル・フィート、バッドフィンガー、ボンゾドッグ、キング・クリムゾンといった錚々たる面々の動く映像が残っていたという事実である。当然、番組自体のコンセプトが素晴らしいのだが、それらを選曲、編集したスタッフの良心的なスタンスも特筆に値する。

 私が最初にビートクラブの映像を見たのは、かつてTBSでピーター・バラカン氏が司会をしていた「ポッパーズMTV」という番組である。「AVガーデン」と並ぶ良心的番組であったこの放送で、ピーター氏はビートクラブを絶賛した。恐らく、この番組を機にLDを購入した人も少なくないだろう。

 MTVという音楽紹介の手段は、日本においては未だ一般化には至っていない。音楽番組が少なくなった今、MTVを利用したプロモーションはもっとなされてもいいはずだが、いかんせん市場が整っていないのが現状である。

 LDというパッケージメディアはいずれMPEG2に準拠したフォーマットに移行していくだろうが、その際に提供する素材の中心は、また映画なのだろうか。それは音楽でなければならない。確かに音楽はライブ映像が大半を占め、面白みに欠ける。しかし、プロモーションビデオはどうか。ゴドリー&クリームやジム・ジャームッシュなど、気鋭の映像作家が生み出す作品は、遂にはアメリカで「MTV大賞」のようなものを催させるまでに至っている。アーティストは莫大な金をかけてビデオを作り、それをプロモーションの重要な手段として捉えている。それをCDサイズにして商品化し、レコード屋に並べたとしたら、私は恐らく今よりはソフトが売れると思う。音楽はリピート性が高いからである。

 話が横道にそれたが、MTV登場以前は「エド・サリバン・ショー」であり「レディ・ステディ・ゴー」であり、そして「ビートクラブ」であったことを考えると、映像がプロモーション手段として重要であることは言うまでもない。我々は音響メーカーであると同時に、再生産可能な文化を紹介する担い手として、こうした音源を世に紹介する義務があると思う。

 ビートクラブにしても、既リリースの音源はまだ全体の半分強に過ぎないとのこと。契約上の問題もありそうだが、大変もったいない。ロウエル・ジョージやピート・ハムを見た時の感動がまだ残されていると思うと、期待するというよりぞっとする。

 光ディスクの裾野を広げるためにも、是非またこういった映像を発掘、商品化することを継続していただきたい、と切に願っている。