XTCの謎

#本文は1995年4月号に掲載されたものです。

 「薔薇がなくちゃ生きていけない」とはムーンライダーズの「マニア・マニエラ」での言葉だが、「日本がなくちゃ生きていけない」のが今のXTCの現状だろう。XTCが何故、本国イギリスやアメリカで売れないのか、そして何故日本で売れるのか。この謎はアンディ・パートリッジの人間性と共に、日本の洋楽に対する意識を分析することで見えてくる。

 XTCがライブ活動をやめたのは、名作「イングリッシュ・セトゥルメント」を発表してからである。理由はアンディ曰く「ツアーで毎日同じ曲をやるよりもスタジオで凝った録音をしている方がクリエイティブだから」である。同様の手法を選んだのがビートルズであるがために、XTCは「現代のビートルズ」もしくは「裏ビートルズ」などと呼ばれている。実質その影響は顕著だが、彼等がビートルズと違うのは「売れてない」ことである。それ故、彼等は所属のレコード会社であるヴァージンに大量の借金を抱え、また常にヴァージンと作品についての争いが絶えない。

 「プロデューサーをプロデュースする」と言われるほどのアンディの徹底した頑固ぶりは、歴代のプロデューサー
・スティーブ・リリーホワイト
 U2の「War」ピーター・ガブリエルの「サード」等での革新的なドラムの音で世界中に注目を浴びた。
ヒュー・パジャム
 ポリスの「シンクロニシティ」で一躍名をあげた。
・スティーブ・ナイ
 JAPANのプロデューサーとして有名。
トッド・ラングレン
 POPの大御所。アンディとの対立は当時話題となった。
・ガス・ダッジョン
 エルトン・ジョンのプロデューサー。
との対立の歴史に如実に現れている。XTCがセルフプロデュースをしない理由のひとつが、XTCの商業的成功を要求するヴァージンの意向であることは言うまでもない。

 XTCが多作である理由もそこにあるが、それが逆に大量の未発表曲を生み出し、XTCを更にマニアックな存在にしてしまっている。実はそこに日本でファンが多いという謎が隠されている。

 日本は豊かな国であり、欧米のアーティストにとっても格好の市場である。しかも欧米に対してのコンプレックスが強く、アジアとしての日本というより、経済力でトップクラスの日本、を自負する傾向にある。黄色人種である誇りよりも、白人や黒人を表面的に真似することを優先する。世界にアピールできる音楽は沖縄音楽のみである。今、日本のミュージシャンで世界に通用するのはサンディー、坂本、ボアダムズくらいだろう。

 そして我々は英語に対してもコンプレックスを持っている。英語が話せれば、「カッコいい」のである。逆に英語を話せる人の一部はそれを特権意識と勘違いし、文化人ズラをしている。

 欧米のミュージシャンの歌詞のニュアンスを日本人がどこまで理解できよう。むしろ大切なのはメロディや音である。その意味でXTCのメロディは捻くれており、快感である。しかも日本人は未発表曲を集めるだけの金をもっており、またそうしたマニアを対象としたレコード屋の何と多いことか。こうした事情によって、XTCは日本では大変評価が高いのである。(もちろん楽曲のクオリティも高いのだが。)

 XTCが来日するという噂はだいぶ前から巷を賑わしているが、一向に実現しない。いっそ自社で契約してくれないかな、と密かに期待しているのだが。