ピチカート・ファイヴの戦略

#本文は1995年7月号に掲載されたものです。

 「ピチカートマニアの皆さん、今晩わ。」
彼等のコンサートで小西康陽が最初に放つ台詞である。

 ピチカート・ファイヴのトータルなイメージ作りは素晴らしい。メジャーでもマイナーでもないというスタンスの取り方、そしてPOPと通好みの間を微妙に揺れ続ける自らの位置付け。インテリの音楽だ。その気取り具合が一部から嫌われる原因だが、それを承知でやっているところは見上げたものだ。

 かつてオリジナル・ラヴ田島貴男はピチカートのヴォーカリストだった。しかしそれが野宮真貴に代わってから後、小西康陽は彼女を使ったトータルなコンセプトを構築し、強力なメディア戦略を繰り返すようになった。

 「乗せられていることの快感。」これがピチカート・ファイヴの醍醐味だろう。壮絶な音楽知識に裏打ちされた小西の音楽が次第にメジャーになっていく時、ピチカート・ファイヴの活動はピークを迎えるだろう。

 「スウィート・ソウル・レビュー」がCMソングとなったことで一瞬ブレイクしかけたが、その後はまた、通好みに逆戻りしている。「売れなければ意味がない」と田島貴男は言っているが、日本のポップ・ミュージックはそうした良心的なミュージシャンの手により、徐々に変質しつつある。

 ピチカート・ファイヴがビデオクリップ等の映像作品にこだわりを見せるのも圧倒的に正しいやり方だ。西洋文化が伝統文化と強烈に混在する島国で、こうしたユニットが登場するというのは、大変に意義深いことだ。

 執拗に「サンキュー」を繰り返す小西康陽とファッションを生き甲斐とする野宮真貴ピチカート・ファイヴには、日本の音楽界の逆黒船となっていただきたい。

 小山田圭吾高木完との絶妙な関わり方、そのセンスの良さがどこまで続くのか分からないが、とりあえず、その戦略に乗ってみようではないか。