プライマルの文脈

#未発表文。執筆年は1995年or1996年です。

 郡山営業所にSさんといういかした男がいる。驚いたことに、この方が田島貴男に酷似しており、私は会うなりファンになってしまった。

 オリジナル・ラヴが「プライマル」でブレイクしたことは大変意義深いものがある。それ以前に「接吻」でかなり知名度を広げてはいたが、どちらにも共通するのは、ドラマの主題歌であったということ。現在の音楽認知の手段としてドラマが大きい役割を果たすという図式は、大滝詠一の論法からも現状仕方のないことなのだろう。

 しかし私は「プライマル」を購入していない。どうも、このシングルだけでは今までのオリジナル・ラヴの流れに沿って今後の方向性を予測することができなかったからだ。

 小沢健二小山田圭吾フリッパーズ・ギターを結成する前からオリジナル・ラヴを信奉していたのは有名な話だが、田島貴男の実質的なメジャーシーンでのスタートはピチカート・ファイヴのボーカリストとしてである。今となっては信じ難い組み合わせだが、その後オリジナル・ラヴとして活動を再開してからは、田島貴男の個性はもっぱらソウルへ向いていた。

 御茶ノ水ディスクユニオンで「スキャンダル」を聴いてから速攻で購入した「結晶」というセカンドアルバムは、いささかアシッドジャズの趣が強かったものの、次の日本の音楽を予感させる素晴らしい出来栄えだった。そして私の友人の「心の歌」になってしまった「サンシャイン・ロマンス」を含む「EYES」を間において、ベスト盤の「サニーサイド」が出る。ここでの「スキャンダル」の変わりようはどうだ。この粘っこい質感、このグルーヴで「次は来るぞ」という期待感は頂点に達した。

 そして題名のみ村上龍の同名小説から拝借したという「風の歌を聴け」。「ROVER」には先制パンチをくらった。そしてカーティス・メイフィールドを意識したという「イッツ・ア・ワンダフル・ワールド」へと続く流れは完璧だった。この頃オリジナル・ラヴが郡山に来たことがあり、早速ライブに足を運んでみた。そのS氏を誘ったのだが、会津の仕事が多忙で行けなくなり、結局私一人で行くことになった。

 そこでの一発目も「ROVER」!このグルーヴ!この時点で、このバンドに対する絶対的信頼を確信し、また往年の北天佑にも似た豪快さに打ちひしがれ、周りを囲む女子高生の中で、私は独り恍惚感に浸っていた。

 次作の「レインボー・レース」で若干スワンプ気味の泥臭さが加わり、また少し別方向へと向かったオリジナル・ラヴがメンバーの相次ぐ脱退で田島の単独ユニットとなった。

 果たして次はどうなるのか。でも今までだって田島の一人舞台だったのだから、たいした変化はないだろう、と思っていた矢先の「プライマル」であった。この題名の響きがまず気に入った。そして田島のFM番組でオンエアされたのを聴いて、若干の違和感を覚えたのである。

 実はこの曲は、あるドラマの主題歌として一度聴いていたはずだった。しかし今思えば、その時点でこれがオリジナル・ラヴの新作であるという認識は、一聴しただけでは全くといっていい程なかった。

 確かに良い曲なのだが、響いてこない。グルーヴがないのである。それが売れたという事実。オリジナル・ラヴの第一印象が「プライマル」だった人にとって、田島の今までの音楽性がこの一曲で焼き付けられるのならば私は悲しい。

 田島からしてみればそれでいいのかもしれないが、それでは「赤色エレジー」=あがた森魚、の図式の二の舞になる可能性がある。

 「プライマル」で乱れた文脈は、困ったことにアゼストのカーナビのCM曲となった次作「ワーズ・オブ・ラヴ」でも同様の傾向を見せた。ティン・パン・アレイ、キャラメル・ママの時期に代表される古き良き70年代の成熟した音楽性からシンプルな要素のみを受け継いだかのようなその旋律に浪漫を感じる人がいたとしても、過去の流れから見れば、別方向とはいえ若干の後退感と単独ユニットの限界を感じる人の方が多いのではないか?

 その後リリースされた「ディザイアー」は佳作である。1曲目のラストのギターリフはなかなか良いが、イントロのインド風味は一体何だ?3曲目のチャンプルー、ニューオリンズの安易なミクスチャーは一体何だ?

 思うに木原龍太郎小松秀行の存在は、たとえオリジナル・ラヴが田島の私物であったとしても非常に大きいものだったのではないか。田島の持つ卓越したセンスと、ある意味王道のメロディが、単独となったことで、いささか平凡な色彩を帯びてきたといえば言い過ぎだろうか。

 一時期の沸点を体験しただけに、この文脈の乱れは若干気になるところである。