あがた森魚『永遠の遠国at渋谷ジァン・ジァン』

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制作期間およそ8年というアナログ3枚組の大作『永遠の遠国』。リリースは85年だが、このライブは制作初期の78年に行われている。その発掘音源が去年リリースされていて、ずっと迷っていた。高いから。と思ったらJANISにあっさりあったので借りてしまった。

究極の名曲『いとしの第六惑星』を初めてコンサートで聴いた人は一体どう感じたのだろう。『永遠の遠国』では1曲目に収録されていて、私は一発で完全にノックアウトされてしまった。このノスタルジーと一種の楽園志向が阿蘇の風景と東京のネオンを彩って歌われると、何とも切ない気分になる。

『永遠の遠国』のアナログ盤を最初にお茶の水ディスクユニオンで目撃したのは20年前くらいだ。3万円近くしたので躊躇していたら、次に行った時にはもうなかった。それから約10年後、新宿の中古レコード屋のチラシで発見。行ってみたらもう売れていて、値段を参考までに聞いたら12万円。下手をすると買っていた。その後、CDで無事再発されたが、そのくらい時空を超えてしまうアルバムだ。

細野晴臣がプロデュースした『淋しいエスキモウの様に』なんかも最高な訳だが、友部正人のカバー『誰も僕の絵を描けないだろう』は強烈な暗さで、今のひきこもりやうつ病なんかを吹っ飛ばすインパクトがある。昔は今より暗い人はもっともっと徹底的に暗かったんだろう。信じがたい歌詞内容である。

このコンサートは元はちみつぱいの渡辺勝バンドと一緒に行われていて、『夜は静か、通り静か』なんかも聴ける。当然武川雅寛も参加しているが、本編はムーンライダーズも全面参加している。あがた森魚の風貌はカーネーション直枝政広みたいだなあ。

1978年という年はYMOが結成された年な訳で、そう考えるとこの泣きのボーカルのフォークな世界が急速に変貌する前夜だったのだろう。その衝撃は余りに大きいことは想像に難くない。何とあがた森魚はこの後ヴァージンVSを結成してテクノ路線に行く訳で、恐ろしい転換だ。それを間に挟んで『永遠の遠国』がリリースされたという事実も凄い。予約者限定で事前にお金を徴収してレコーディングするという形態をとり、僅か300セットしか販売されなかったという、しかもその制作に8年かけるという伝説のようなこのアルバムは、『いとしの第六惑星』が冒頭に流れる限り永遠に輝き続ける。