坂本龍一『音楽は自由にする』

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坂本龍一の自伝も出た。『SELDOM ILLEGAL 時には違法』では「喪の仕事」の話が面白かったが、今回は純粋に自伝。どうかな、と思ったが結構面白かった。

やはり受けている教育がスタート地点で影響している。ハイクラスな出自で、母親の整える一種個性的な環境が後の思想に紐づいてきているように思う。中学の頃から「実存とは」とかいう話をする奴はそんなにいないでしょう。

読んでいて笑ったのは高橋幸宏の家に初めて行って、そのアールデコ調の装飾に仰天した、という話。YMOの頃の話では『CUE』を自分抜きで作られた時に「これは逆襲だと思った」というくだりがある。そういう意味では『B-2UNIT』はメンバー間でもエポック・メイキングなアルバムだったんだな。かつて会社の人とのメールのやりとりで「何故か久しぶりに『B-2UNIT』が聴きたくなりました」と言われたことがあるが、自分のパブリック・イメージはああした破壊衝動みたいな、ある種アンチテーゼなものなのかと思った記憶がある。

『ラスト・エンペラー』のベルトリッチからの「一週間で音楽を作れ」というオーダーも凄いが、甘粕絡みで「映画には虚構と現実の境を飛び越えるようなところがある」といったエピソードを語るところは非常に興味深い。急遽録音することになった音楽を演奏する際に、当時の施設や歴史の記憶をもった人が実際に関わることで亡霊を見たような感覚になる、といったような話なんだが、この辺のリアリティは実際にやった人でないと分からないもので、ちょっと引き込まれた。

矢野顕子を救おうと思って結婚した」みたいな話や武満徹とのエピソードなど、さらりと流すパートにも見所は多く、読んでいて発見も多い。911なんかもリアルな感情の動きが垣間見える。一気に読んでしまった本だ。