ヴァージニア・アストレイ『Hope in a Darkness Heart』

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『サム・スモール・ホープ』の邦題で86年にリリースされた、坂本龍一プロデュースの3rdアルバム。長らく廃盤だったが、先月末に目出たく紙ジャケ再発された。これはまたその内すぐなくなってしまうだろうと思い、買っておいた。

このアルバムの存在は知っていたし、発売当時はFMかなんかで聴いた覚えもあるので、何となく雰囲気は察しがついた。実際、デヴィッド・シルヴィアンもボーカルで参加している表題曲なんかは、イメージ通りエンヤの先駆けみたいな感じで、全編こうかなと思って聴き始めた。

 

デヴィッド・シルヴィアンの声が若い!バックの音はYMOの『M-16』みたいだ。

ただ、聴き進めてみるとイメージはいい意味で裏切られた。坂本龍一のアレンジは透明感のある声をそのまま活かすというより、矛盾するような強めの硬質なビートを裏に絡ませ、かつ全体的には静かなポップスに仕上げている。この声と曲そのままだと以外と長く聴くと飽きが来るようなところを、様々な音を挿入・構成して、ただ綺麗だけでは終わらない楽曲にしている感じがする。

4曲目の『I'm Sorry』なんかはフレットレス・ベースが声やリズムに絡んできて非常によく仕上がっている。これはなかなかに侮れないアルバムだ。佇まいが静かなのにポップなところがいい。

86年といえば『未来派野郎』の頃で、自分が一時的に坂本龍一に見切りをつけた時期。確かに音色は80年代の嘘くさい感じが滲み出ては来るが、このアルバムでは全体のトーンに対していいアクセントになっている。きっと今だったらこういうアレンジでは作らないだろうが、その時代における偶然性が結果としていい方向に出ている希有な例だと感じた。

まあ、単純に身を委ねるだけでも気持ちがいいんですけどね。