坂本龍一『Playing The Piano 2009 Japan Self Selected』

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今年行ったピアノ弾き語りツアーの自己ベスト盤。今回のツアーは全公演が24時間以内にiTUNESにアップされるという離れ業を敢行した画期的ツアーだったが、その内自らが各地の公演から選曲してCD化されたのがこの2枚組アルバムだ。27曲というボリュームで、トータル2時間以上。

初回の東京公演はダウンロードして聴いていたが、当然MC入りなので全体の雰囲気はそちらの方が掴みやすい。ただ、楽曲単位ではアルバムの方がまとまってていいだろうと思い購入してみた。しかし、これはびっくりするアルバムだ。

何といっても観客の咳が凄い。1曲目の相模大野公演の『hibari』から度肝を抜かれる。ここまであからさまだと、やはり意図的に選曲しているとしか思えない。「これはライヴ盤なんだぞ」と最初から釘を刺されているようだ。最後には子供の泣き声まで入っている。

はっきり言って賛否両論あるが、あえてライヴ盤という雰囲気を隠すことなく伝えるという意味では緊張感のある演出ではないかと思う。曲に集中することをあえて不可能にするようなそのノイズは、単なるピアノ弾き語りというには余りに生々しい。

元々2曲目の『composition 0919』は本人自身のMCでケータイ、デジカメの撮影OKとの前フリをして、ケータイの様々な撮影音をバックに演奏されるという「Out of Noise」な演出だった訳だし、また大阪公演の『東風』では観客のリクエストに応じて弾き始めるというやりとりをあえて収録していることからも、そのままのノイズを音源化してしまうという、ある意味挑戦的な姿勢がうかがえる。

実際、ライヴ盤というものは観客の声や拍手といった様々な音を交えて臨場感をパッケージするものなのだから、こうした偶然性はむしろ聴きものになる。普通は音に消されてしまう咳の音が生で残されてしまうのは、ピアノのみでの演奏である限り仕方ないし、実際マスキングすることも難しいのかもしれない。でもまあ、よくここまであからさまに音を残したものだ。

『Merry Christmas Mr. Lawrense』のようにほとんど雑音がない録音もあるが、むしろこうした普通の録音物の集積だったら、聴いていて飽きが来たかもしれないと思わせる。

若干深読みかもしれないが、何かしらの判断が音源選択時に働いていることは間違いないだろう。因に『Behind The Mask』のアレンジはなかなか新鮮でいいぞ!