トッド・ラングレン『アップ・アゲインスト・イット』

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歴史から黙殺されている97年リリースの作品。元々はミュージカルのために86年頃に書かれたものだというから、『ア・カペラ』の翌年くらい。『ニアリー・ヒューマン』に収められている『Parallel Lines』の独演バージョンが収録されている。

 

この時期はトッド・ラングレンがインタラクティヴ・アーティストを目指す、等と言っていた頃で、このアルバムがCDとしてリリースする最後のものとの触れ込みだった。当時、『ノー・ワールド・オーダー』と『ジ・インディヴィジュアリスト』で幻滅していたので、この作品にもまったく興味が湧かなかったため、トッドで唯一持っていないアルバムだったが、今聴くと意外とまともで曲もそこそこいい。

元々ミュージカル・タッチの曲は『トッドのモダン・ポップ黄金狂時代』での『Emperor of The Highway』なんかでも出ていた傾向だったし、『セカンド・ウィンド』なんかもそのテイストだったので、左程驚くような展開ではないか、何せ音がチープでミュージカル用ということで、事前情報で引きっぱなしだった。でもその後の展開『ライアーズ』『ワン・ロング・イヤー』のことを考えれば、決して聴けないレベルではないと踏んで聴いてみると、ほぼ予想通り。チープな音というのは後期UTOPIAにあるような古臭いキーボードの音色のことで、この辺は師匠の手癖と言っていいレベル。要は曲が良ければそれでいいんだ。

最近は『魔法使いは真実のスター』の完全再現コンサートをやったり、ロバート・ジョンソンのカバー・アルバムを企画中だったりと益々元気に活動中なので頼もしい限りだが、ある意味暗黒時代の幕開けに出された徒花のようなこのアルバムも今となっては愛おしく感じられる。歌がうまいんですよ、やっぱり。