鈴木慶一『火の玉ボーイ』

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口直しに鈴木慶一ムーンライダースの76年作を。結果的にムーンライダーズの1stのような扱いになってしまっているが、実際は鈴木慶一のソロとして制作された作品。最初メトロトロンからCD化された際には鈴木慶一名義だったが、今回そのバージョンがしれっと中古屋にあったので手に取った。

このアルバムは以前BOXで持っていたが、BOX毎売ってしまったのでずっと手元にないままだった。その後はちみつぱいのBOXなんかも手に入れて散々聴いてきたので、「やっぱり手元にないとなあ」と思って気にして見ていたら今回見つけた次第。それにしても1曲目の『あの娘のラブレター』で既に完成している。さっき聴いたスライの『Fresh』から僅か2~3年しか経ってないというのもびっくりする。昔の作品なんですよね。何でこんなにモダンなんだろう。まったく古びていないのも驚きだ。今出たって不思議じゃない。『スカンピン』は30周年の曽我部恵一のカバーが秀逸だった。

 

中盤に出てくる無国籍志向はその後のムーンライダーズのアルバムでも散見されるが、この辺りはティン・パン・アレイの一連の録音物で聴かれるテイストでもある。若干この時期はフュージョン寄りの時期でもあり、坂本龍一なんかでさえもクロスオーバーよろしくフュージョン・バンドをやっていた。流行りだったんですね。確かな演奏力を持った上でテクノやパンク、ニューウェーブといった流れが来た時にあえてそれらを破壊していく。あくまで演奏力を携えた上で、というのがポイントで、元々何もなかったらここまで息の長い活動はできなかっただろう、と最近の姿を見て思う訳だが、そんな意味でも定番回帰は語れてしまうだろう。戻る場所を持つものと持たぬものは違う。持たぬものはスピリットのみ、持つものは技術が加わるので無敵だ。

『魅惑の港』はあまり馴染みがなかった曲だが、結構いい曲ですね。後のライダーズを感じさせるリレーボーカルで、音の上品さに隠れて見えづらいが結構変わった曲だ。ラストの『ホタルの光』は当時リリースされたあがた森魚の『日本少年』のラストと同期している。二人で約束して入れたとのこと。この辺の連帯ももはや懐かしい昔の話。35年前ですからね。物凄く昔の話のようだが、ロックの歴史が60年代からだとすると、一気に繋がってスパイラルで廻っている感じがするので左程そう感じない。パラダイムシフトはこの10年代かもしれないので、慎重に見ていこうと思う。