キリンジ『BUOYANCY』

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やっと手にしたキリンジの新作。「浮力」をイメージしてタイトルを決めたそうだ。
http://natalie.mu/music/pp/kirinji

インタビューでも触れられていたが、今回は連続配信を集めた前作と異なり、アルバムとしての曲が持ち寄られて完成したようだ。従って、実験作も結構入っている。特に兄貴の曲は意欲的だ。先行シングルの『セレーネのセレナーデ』も極上の手触りでひんやりとした夏を感じる大作だったが、『台風一過』や『都市鉱山』もなかなかだ。

都市鉱山』はムーンライダーズとの共通性が語られているが、堀込高樹のボーカルは鈴木慶一というよりトーキング・ヘッズデヴィッド・バーンを想起させる。いずれにしろ、これまでなかった傾向だ。やりますなあ。

アンモナイトの歌』の静かな佇まい、これも『セレーネのセレナーデ』同様穏やかな狂気だ。曲が短いのもいい。

『夏の光』で始まって『小さなおとなたち』で締める先行シングルでのサンドイッチは従来通り無難な構成。思い切ってシングル曲を入れないのもありかと思うが、そこをきちんと配してくるところはやはり堅実。この大衆性がある意味魅力の一部でもあるので致し方ないところか。

本作での一歩前へ出る感じがもっと加速すれば次は凄くなる予感がする。デビューが衝撃的だっただけに、その後の模索が歯痒く見えて微笑ましいが、レーベル移籍の『DODECAGON』に次ぐ殻破りの一作。原点回帰とミックスすればもっといける、まだいけるだろう。期待が大きいのでついつい厳しめに見てしまうが、文句なしの一打にはあと少し、もう少しだ。