高橋幸宏『EGO』

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これはずっと聴きたかったアルバム。紙ジャケ再発の時も何となく手が伸びずにいたが、ユニオンの年末セールが5枚で15%オフだったので、ついまとめ買いしてしまった。全部あるんだもの。

実は先日聴いたムーンライダーズの『Don't Trust Over Thirty』に発売以来20年以上経ってあまりに共感してしまったため、例の「心痛3部作」なるものに興味が湧いたのがきっかけ。高橋幸宏のEMI時代はタイアップなんかもあって、あまりのメジャー路線に自分の中で意識的に遠ざけていたんだが、40代初頭ともなるとそうもいかない。やっぱり歳をとるということは辛い反面色々な発見もあるんですね。先日の山下達郎のサンソンで竹内まりやと一緒に「50代の達観」といった話がされていたが、まさに年齢によって聴こえてくるもの、感じるものは違ってくる。これを発見しただけでも調子が悪くなった甲斐があるってもんだ。88年リリース。ビートニクス2ndの翌年だ。悪い訳がない。

オープニングはビートルズの『トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ』のカバーから始まる。これは意外なオープニングだ。リズムがノーマルなのがかえって印象的。制作に1年かけて精神的にもきつかった時期に作られたという割には物腰が軽い。しかし『Look of Love』なんて歌われるとABCみたいだな。まあデヴィッド・パーマーと一緒にやってたんだからいいのか、別に。

今日も通勤途中で聴いていた『Once A Fool』の頃に比べると音が若干鋭い。『薔薇色の明日』の頃に少し戻った感じ。高橋幸宏の場合、ロマンティックでありながら先鋭的という特異な個性があるので、そのブレンド具合が真骨頂だ。どちらに寄っても今の自分にはきつい。この辺の柔らかさが朝には合うんだな、何となく。

次の『Sea Change』は聴きたかった。細野晴臣の曲というのもあるが、亡くなった生田朗が元々詞を書いていたというのが痛い。坂本龍一の強い要望で大村憲司と一緒に詞を書き変えたそうだが、これはいい曲。やっぱり細野さんは独特の曲を書くなあ。ピアノの音が綺麗だが誰が弾いてるんだろう。

B面に入って『Dance of Life』もいきなりカッコいい。ボーカルは誰なんだろう。アイヴァ・デイヴィス?『YES』もイントロいいですね。なるほどこのアルバムを好きな人が多いのが分かる気がする。音のブレンド具合がいいんだな。

次の『LEFT BANK』はビートニクスでお馴染み。鈴木慶一の曲だがここではどう響くのか。結論から言うとビートニクスより音がいい。高橋幸宏らしく端正に作ってある。ビートニクスの2ndは若干音がチープ気味で、そこがまた魅力だったりするんだが、これはこれで曲として完成した感がある。これを成熟ととるかどうか。癒し度はこちらの方に軍配が上がるかな、長く聴いていけば。

ラストの曲はイントロが『WILD & MOODY』の『Stranger Things Have Happened』みたいだが、あちら程リズムが複雑ではない。『Once A Fool』の『One More Chance』も同路線かな。

ということで全体的に期待に違わぬ出来。傑作ではないが意欲作。この後のアルバム群も聴くのが楽しみだ。因にこの前の『Only When I Laugh』は買うのを見送ったんですが、出来はどうなんでしょうね。自分としては『Once A Fool』は大好きな反面、甘さの臨界点のような気がしてそこから途絶えたんですが、今回も非常に迷いました。若干軽めとのことなんですが・・。