鈴木慶一『ヘイト船長回顧録』

f:id:tyunne:20181021102445j:plain

渾身のソロ作をやっと聴くことが出来た。三部作の最終作だそうだが、ゲスト陣も高橋幸宏遠藤賢司PANTAあがた森魚などと豪華だ。

一聴した印象は思った程暗くない、というものだった。今回も曽我部恵一とのプロデュース作品だが、前作、前々作と非常に難解だったので聴くのが少し怖かった。そこは半分くらいいい意味で裏切られる。ハードディスクレコーディングの硬めの質感は相変わらずだが、曲が明るめ。2~3分のコンパクトな作品も多い。昭和・戦後を振り返る大作と言われているが、パッと聴きは左程の重さは感じない。ムーンライダーズの最新作『Tokyo 7』での『Small Box』くらいのポップさが漂っている。

『火の玉ボーイ』以来のムーンライダーズの無国籍路線はここに結実しているようにも思う。どこでもないような国。下手をすれば地球でもないような不思議な雰囲気を醸し出す。ゼロ年代に入ってからライダーズは断末魔の好調を示すようになったが、父の死を踏まえたかと思しき演劇的要素やボニージャックス、スリーディグリーズといったベテランコーラスグループの参加、旧友との親交なんかがすべて盛り込まれ、かつガチガチのコンセプトアルバムという形態をとるという離れ業。これはやはり鈴木慶一にしか出来ないだろうな。細野晴臣とはまた異なる総括の仕方。それを曽我部恵一と作り上げたという事実。ある意味しつこいコンセプトワークを徹底させる振る舞い。パッケージメディアを大事にする姿勢など、賞賛すべき要素は切りがないが、何より曲が悪くないのが救いだろう。

後半のCity-sideに入ってくると曲が若干長めになるが、『Witchi-Tai-To』でのライダーズのコーラスにまずは救われる。続く『ネアンデルタール,JFK,JWL,JLG』は遠藤賢司あがた森魚PANTAと旧友大参加だが、大袈裟にならずにロマンティックにリリックを紡いでいく。あくまで構築の姿勢を崩さないのが潔い。

歴史を振り返る作業は昨今の坂本龍一も手がけていることだが、鈴木慶一の場合、架空の物語の中で過去を振り返るという時間軸を採用しているのがストーリーテラーとしての心意気を感じさせる。妄想家なんですね。何にせよ長く聴くに耐え得る作品だと思う。

今年は『火の玉ボーイ』発売35周年。長い時の流れが折に触れ総括される。そんな時代に10年代はなっていくのかな。端的にロック洗脳世代が年齢を重ねているが故の所作とも思えるが、そこで作品を残していけるのが貴重だし、きっと軽く使命感も持っているのではないだろうか。