高野寛『カメレオン・ポップ』

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前作『Rainbow Magic』は久々に買った高野寛の作品だった。pupa以降吹っ切れた感じもあって今の状態はとてもいいと思うが、今回の新作でも好調は維持している。

基本的に抑えめの音、というよりくぐもり気味のミックスでこれがとても快適。初めての全編一人多重録音によるセルフ・プロデュース宅録盤。ずっとやりたかったトッド・ラングレン細野晴臣形式の制作方法で、やっと今回挑戦できたとのこと。そのトッドの『I Saw The Light』やYMOの『君に胸キュン』をカバーしているが、これも今の高野寛の自然体を表していて好感が持てる。前作で参考にしていたというベニー・シングスを思わせる開かれた宅録感。様々な要素をギュッと凝縮した果汁100%ジュースのような趣。新鮮だけと加工されているような。

楽曲単位でも端的にいい曲が多いのは前作同様。ただ前作では多彩なゲストとともに楽しく総決算をして再出発するような感じがあったが、今回は一人旅。それも確信を持って行っているかのようだ。自分の立ち位置が見えてきたんだな。そして自信もある。これはしばらく好調が続きそうだ。

震災前に完成したそうだが、本人のコメントでもある通り震災後を想像させるような言葉も多く、昨今の閉塞感を感じてそれを投影していたんだろう。同日に新作をリリースした曽我部恵一もそうだが、自分達にできることは何かを問いつめた時に出した結論がそのままのリリースだという共時性は興味深い。