曽我部恵一『PINK』

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春を待つ曽我部恵一の10周年新作。曽我部恵一といえば『Love City』だと思うが、そこに迫っているかどうかという一点で聴いてみた。若干軽い。軽いというのは詞が軽いという意味で、音の方は中盤の『愛と苦しみでいっぱい』くらいから随分と調子を上げてくる。高野寛同様、震災後に出すべきかと自問自答してリリースすべきと判断したというエピソードを踏まえるとつい深読みもしたくなるというものだが、そこは音楽として世の中に届けるという以上のものではない。それが結論かもしれないが、それ以上を求めるのはお門違いというものだろう。

様々な活動で突っ走っている人なので、最早殿堂入りのような風格が出てきているが、それは野心なのか。ビジネスとして成立することを重視している点では坂本龍一との共通点が見出せてある意味潔いが、溢れ出る自信に作品が見合っているかどうかは別問題だろう。佇まいが普通過ぎて祭り上げる側の方に違和感を感じてしまう。そんなことは関係ないんだよ。そういうもんじゃない。この人の音楽はさりげないものだ。そこが魅力だと思う。

10年ぶりに来たカレー屋さんを歌った『がるそん』が一番好きかな。『何もかもがうまくいかない日の歌』みたいな勢いは音としては共感するが歌詞は軽い感じがしてちょっと同化しかねる。作り込むんじゃなくて単に歌を出していくこと、その自然さを大事にしたということだが、もう一歩踏み出してもいいんじゃないかな。自然体というのは軽さじゃなくて達観だ。奥田民生みたいな隠し味を懐に秘めたしたたかさがもっと出ていてもいいように思う。いい曲なんだけど言葉はもっと選んでもいい。