ムーンライダーズ『カメラ=万年筆 スペシャル・エディション』

f:id:tyunne:20181021141425j:plain

80年にリリースされた重要作が2枚組になって再生された。1枚目は2011年リマスター。2枚目は『月面讃歌』よろしく他人にリミックスを委ねた再構築盤だ。物凄いボリュームで、こんな形で蘇らす手法もあるのかと感心する。元々はマルチテープが発見されたから実現した企画のようだが、単なる再発に終わらないところがらしいところ。この後開催される『火の玉ボーイ』再演コンサートなども含め、旧作の復活の仕方においてもライダーズは別格だ。

オリジナルをアナログで手に入れて聴いたのは、既に80年代も半ばだったか。その荒削りな魅力に戸惑ったが、その後も妙な勢いに気恥ずかしくなる瞬間が多々あった。それでも『水の中のナイフ』や『狂ったバカンス』『大人は判ってくれない』といったいい曲が入っているアルバムとして定期的に手に取った。ただ、すべてが映画のタイトルでかつ再解釈を施したものであること、ヌーヴェル・ヴァーグからの引用、ニュー・ウェーブに感化されたそれまでとの路線の決別、といった様々なテーマが渦巻いている意欲作なので、非常に濃い印象があって何層にも仕掛けがある。ムーンライダーズの分岐点であると同時に当時の若さもパッケージした若干「青い」アルバムでもある。こいつは何度も聴いて楽しむもんでもない。剥き出し過ぎるんだ。

ここ最近のライブで本作の曲を再演することもあったので予感はあったが、それでもこんな形で再発するというのは何とも豪華だ。当時の記憶としてアンディ・パートリッジが『テイク・アウェイ』でやったような自作のダブでの再解釈を施したことが根本的な出発点となっている。その手法を現代にも適用するところが凄いが、元々が解体・再構築で出来上がっている作品だから、という鈴木慶一のコメントはコンセプトというものが時代を超えてしまうことを端的に表していて興味深い。

それでも他人によるリミックス集は、特に今回の場合オリジナルが完成しているものなだけに困難な印象を残す。ちょっとアバンギャルド過ぎるきらいがあるな。好きな人以外はやはりついていけないだろう。逆に好きな人にとってはこんなにゴージャスなプレゼントはない。

相対性理論の永井聖一による『無防備都市』の再解釈がまずはいい。原曲を別物にする、切り刻むのではなく「こうもあり得た」というようにしていくような跳び方が今回のリクエストに応える最良の回答だろう。『月面讃歌』と異なり、必ず比較されることを意識して作らざるを得ないのがハードルを上げているように思うが、そこを見事に乗り越えている楽曲は少ないし、またメンバー自身もリミックスに参加している点もプレッシャーだろう。

クラムボンのmitoによる『大人は判ってくれない』もいい出来。要するにリミックスという手法を単に電子的に切り貼りしてコンクレートする手法が目立つ作品は古く見えてしまうんだな。そうではなくてパーツを拡大解釈してオリジナルとして再生する、例えれば服飾のような作品が突出する訳で、それ単体としてポップでなければならないんだと思う。