「ラヴ」から「ラブ」へ。
オリジナル・ラブと片仮名表記を変更して再出発した田島貴男の新作。こちらも吹っ切れた感じの作品だ。今回はすべてひとりで演奏、録音したそうだが、ここ最近の奥田民生といいひとりですべてを賄うアーティストが目につく。
オリジナル・ラブは03年の『踊る太陽』以来ちょっとついていけなくなってしまって次作の『街男、街女』で途切れていた。『風の歌を聴け』で頂点に達して以降は様々な方向に迷走していた感があるが、この作品はソロユニットになって以降の『ELEVEN GRAFFITI』や『ムーンストーン』のような飾り気のないいい曲を聴かせる雰囲気がある。1曲目の『フリーライド』からして鳴り響くのはラジオから聴こえてくるモノラル放送のようなザクッとした勢いだ。
ひとりで録音したとは言ってもガチガチの打ち込みではなく、アナログで単独演奏したものを多重録音したそうで、レコーディングの試行錯誤はブログやツイッターで随時目に入ってきていた。で、若干の箱庭感は漂うものの、印象はすっきりしている。こいつはスタート地点と見るべきだろう。ブライアン・ウィルソンやトッド・ラングレンのような圧倒的な孤独、個人志向、他人のつけいる隙のないひとりグルーヴが果たしてどこまで進化するのか、今後が見物だ。今後が。きっとバンドのグルーヴに回帰するんじゃないかと思うんだな。そこがひとつの勝負のような気がする。
初回盤特典のDVDにはひとりで演奏する『フリーライド』が収録されているが、こいつが見物だ。その場で音をループさせて重ねていく手法はジャコ・パストリアスや坂本龍一の演奏のようにスリリングで、最後にはコーラスもその場で重ねていく。これは単純にカッコいいし、現在進行形の田島貴男のグルーヴを象徴しているように思った。