『トッド・ラングレンのスタジオ黄金狂時代』

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先日出たトッド・ラングレンの音楽本。買ってすぐ会社で冒頭の写真ページを眺めていたらいきなり『バラッド』の首吊りジャケットのアウトテイク写真!もうこの写真だけでにやけが止まらない。ハードカバーの400ページ近い本で、非常に読み応えがある。目次を見ていてもユートピアのメンバーのみならずザ・バンドのロビー・ロバートソンやパティ・スミススパークスからホール&オーツ、とキャリアを総括する人達の証言が並んでいる。何とXTCの『スカイラーキング』にも丸々1章割かれている。こりゃあスゲエ!ということでとても楽しく読ませてもらった。

ダリル・ホールが「トッドのその後の歌唱法には自分からの影響があるはず」とコメントしているのは興味深い。お互いにお互いの影響を言い合っているようだが、初期の頃はトッド自身が自分のボーカルに自信が持てていないという意外な事実を目にすると、なるほどそうかも、と思わせる。それにしてもジョン・レノンの射殺犯がトッドの大ファンで、どちらを先に殺すかはコインの裏表次第だった、というのは知らなかった。これ有名な話なんですか?

ピーター・ガブリエルとの意外な関係も見逃せない。もしかしたら1stソロのプロデューサーがトッドかもしれなかったなんて、実現していたら何と素敵な話じゃないか。その後も『ニアリー・ヒューマン』にゲストで呼ぼうとしていた等、起こらなかった話が可能性として語られるだけで想像力が膨らんでしまう。

XTCとの、特にアンディ・パートリッジとの確執は非常に有名な話だが、最終的にはアンディもその手腕は認めている、というのが最近のコメントの傾向。でもこの本では内容について実に詳細に経緯が語られており、アーティストや楽曲への愛情が滲み出てくる。

トッドのプロデューサーとしてのワンマンぶりはつとに有名だが、読んでいるとその性格の一片が垣間見えるようだ。要するにプロフェッショナルで自信家なんだろうが、『ニアリー・ヒューマン』のツアーで来日公演を観に行った際に、最前列でずっと座って観ていたらトッドに睨まれてしまった時のあの表情を思い出さずにいられない。いい人じゃないんだろうなあ、と思わせるがそれと作品の質とはやっぱり別物だ。この本を読んでいると単に音楽と仕事への愛情がそうさせていることに気付く。マネジメントの世界とは別なんだよなあ。アーティストだもんな。

その他にもバッドフィンガーやスティーヴ・ヒレッジ、『ミンクホロウの世捨て人』の頃の孤独など発見の連続技で終始飽きない。お盆中にもう一回読もうかな。というくらいファンには絶対お勧めの力作。