ムーンライダーズ ルーフトップ・ギグ

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一年の締めくくりとしてやはり触れた方がいいかなと思い、Ustで観たルーフトップの感想を。それにしても今年は凄い年だった。

震災の時は実は兵庫にいて、まったくといっていい程揺れを感じなかった。余りの事態の恐ろしさに必死で自宅に連絡をとって家族の安否を確認。その後新幹線で帰ってきて翌朝の帰宅難民の多さに驚いた。

福島原発のある相双エリアはかつて入社時に自分の担当エリアだった。広野町から新地町まで。当時の浪江や原町、相馬の人達は果たして無事なんだろうか。そしてその後転勤になった郡山で結婚したので家内の実家は郡山。従って今回の震災は他人事ではない。

といって実際に自分は一分の揺れも体験していない訳だからリアリティがないのも事実。その後の余震や停電、放射能で生活レベルでは追体験できるが、あの時の「死を感じた」という様々な人達のコメントを聞くにつけ、どうしても客観的にならざるを得ない。とはいえ大半の人がそうかもしれないな。むしろそこでそれまでのまったりとした日常が変化したことの方が影響が大きいのかもしれない。

前置きが長くなったが、昨日のセットリストは以下の通り。

1 Who's gonna die first?
2 エレファント
3 水の中のナイフ
4 果実味を残せ! Vieilles Vignesってどうよ!
5 9月の海はクラゲの海
6 無垢なままで
7 Mt.,Kx
8 無防備都市
9 スカーレットの誓い
10 No.9
アンコール トンピクレンッ子

『No.9』で終わるところがまずは渋い。その上でビートルズへのオマージュをどう捉えるかだ。ビートルズのリマスター再発の頃にライダーズがラジオ出演したことがあり、そこで各メンバーがビートルズへの愛情を語っていたが、何といっても彼等の基本なんだろう。鈴木慶一はかつてビートルズのアルバムは一枚も持ってなかったそうだが(人から借りられるので)、それにしたって今回の企画は愛情丸出しだろう。その上でカッコいいことを付け加えておく。唯一の違いは、ビートルズのルーフトップ時にあったメンバー間の確執による後味の悪さが今のライダーズにはないことだ。

30周年の時に野音とは別にライヴハウスでのギグがあった。そこでの躍動感のある演奏と野音での伝説化。その両輪を使いこなすスタイルが今回も行われたんだな、と実感した。そうした際には『カメラ=万年筆』からの楽曲がセレクトされる場合が多い。最もプリミティヴな勢いがあった頃の演奏だからかもしれないが、そこに今回の『Ciao!』からの曲が自然に溶け込んでいることに感慨を覚えた。特に『無垢なままで』を演奏してくれたのは非常に嬉しかった。

鈴木慶一のインタビューを読むとやはり耳のことが触れられている。これは尋常ではない努力を重ねた証で、一時期聴こえづらくなって音程が崩れたことを鈴木博文に痛烈に批判されたことが尾を引いているんだろう。その後大分復活してきたが、一時期はどうなることかと思った。またかしぶち哲郎が元気にドラムを叩けていたことも意外だった。昨今はかならずサポートドラマーを入れて音圧を確保してきているが、正直最初に鬼籍に入るのはこの人かと思っていたので、元気な姿が見られて一安心。

それにしてもメンバーは皆明るい。感傷的にならないで終わるところが今回のポイントだ。中野サンプラザの後も非常に爽やかな気分だったし。『アイランド』にしたくない、という話はとても象徴的だ。ザ・バンドのあのアルバムは個々のメンバーがバラバラになってしまった姿を晒したものだったが、ライダーズは既に『アニマル・インデックス』あたりでその辺の事態は体験済みなので今回は慎重にそれを避けることができたんだろう。鈴木慶一の手腕だな。35年という歳月もそれを後押ししているだろう。

果たしてムーンライダーズはここで終わってしまうのか。それでもいいし、そうでなくてもいい。ただ直後に発表されたビーチ・ボーイズの再結成が鈴木慶一に何らかの影響を及ぼしていることは間違いない。「ああ、こういうこともあるのか」という実感を抱いていることと推測する。そう、メンバーが亡くなってもバンドは持続できるんだ。これには自分も驚いたが何といっても向こうは50周年ですからね。先人は確実に存在する。

絶頂期に幕を下ろす意味合いを何度も考えているが、やはり『火の玉ボーイ』を再現したことが大きかったのではないか。「序文と後書き」と言っていたが、そこでストーリーを考えたんだと思う。「ここで終わったらカッコいいな、と思って」『さえらジャポン』で解散したピチカート・ファイヴにも似た幕の下ろし方。かつ解散ではなく活動休止という余地を残した曖昧さ。こいつが「緩いバンド」ムーンライダーズの振る舞いだ。

最初から最後までそうだが、ライダーズは皆に自立を迫っているんだと思う。自分達自身もそうだしファンに対してもある種のクールさを要求しているのではないか。盲信や狂信を望まないんだな。それが東京一のバンドのスタンスだ、ということだろう。なので聴き手もカッコ悪くてはいけないんだ。ベタついた感傷は不要だしメンバーに対して迷惑だ。アノニマスな立ち位置を貫けた希有なバンド。伝説化をある程度演出しつつカッコつけた終わり方を望んだ紳士たちに僕らは自らの道を見つめ直すきっかけを与えてもらっている。