ムーンライダーズ『1979.7.7 ライヴ・アット・久保講堂』

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パンク、ニューウェーヴ直前の79年七夕のライブ音源。この時期のムーンライダーズは実は余り聴かないんですが、それはひとえに『イスタンブール・マンボ』や『ヌーベルバーグ』あたりの地味な無国籍路線に起因する訳で、スタジオ録音盤のほのぼのとした音や『夜の伯爵』みたいなちょっと気持ち悪い曲なんかに少し粘着質な感覚を覚えるからでもあります。でもこのライブ盤は躍動的でいいですね。

途中のMCで聴こえてくる鈴木慶一白井良明の声は若々しいですが既に今と左程変わらない感じでもあり、30年以上経ってもほとんど同じ内容を喋っています。白井良明はこの頃からお祭り男担当だったんですね。名曲『週末の恋人』が岡田徹のハース・マルティネスばりのハスキーボイス(アナウンサーの息子と鈴木慶一に揶揄されてボーカルに自信がなくてこうなっている、という話は有名)で原曲に忠実に歌われるのは微笑ましいですね。これは本当にいい曲だと思います。坂本龍一サウンドストリートでリスナーのリクエストでかかった際に「マニアックですねえ」みたいなコメントを鈴木慶一と二人でしていたのを思い出します。

赤いアルバムからは『砂丘』のみということで少し残念ですが、かしぶち哲郎のMCも今と少しも変わらない。この曲の魅力に気付くのは随分後になってからですが、やっぱりこれや『シナ海』みたいな渋い楽曲を2ndの時点で既に世に提示していたという事実。何と老成していることか。オールドファンからの支持が厚い同曲ですが、この辺りの魅力は歳をとってから分かってきましたね。歌詞がいいよなあ。演奏もシンプルでいいです。「SF風」なんて時代がかった表現が飛び出しますが、音は確かに古臭いかも。

2枚目に入って『スパークリング・ジェントルメン』のニューウェーブ風アレンジにびっくり。この辺が『カメラ=万年筆』前夜といった感じでしょうか。白井良明の「10月にLPが出ます」というコメントもタイミングの貴重さを物語ります。つまりは『モダーン・ミュージック』のことですね。生まれ変わる直前の姿をパッケージした過渡期のライブとでもいいましょうか。『いとこ同士』からジョン・サイモン作でピチカート・ファイヴも完コピした『マイ・ネーム・イズ・ジャック』、また『スイマー』『ジェラシー』といった今でも演奏するナンバーへ続く流れは本作の白眉です。マンフレッド・マンも再発されたから聴かなくちゃなあ。(『ジェラシー』が途中で切れちゃうのは少し残念・・。)