トッド・ラングレン『ヒーリング2010ライヴ』

f:id:tyunne:20181024214352j:plain

先日の『TODD』に続き『ヒーリング』の再現ライブDVDが届きました。これを一日のショウでやってたなんて贅沢極まりないですね。『ヒーリング』自体は81年にリリースされた比較的内省的なアルバムですが、何故にこれを再現したのか?それはトータル性で表現したかったアルバムなのと、トッドにとってひとつの転機となったアルバムだからなんだろうと思います。それまでひたすら突っ走って来た活動に疲れて、一度自分を見つめ直した作品。漂う雰囲気はまさにチルアウト系で、80年代初頭に既にこうした境地に一度達していたというのはとても象徴的です。70年代のアーティストならではの行動なんでしょう。

ライブがどんなものなのか興味がありました。実際このアルバムは『Healer』や『Time Heals』ばっかり聴いてたんですが、このライブではゴスペル風のコーラス隊が入ることで印象がとても肉感的になっているような気がします。『Healer』での複雑なコーラスが見事に再構築されている様は見物ですし、『Compassion』では後の『Nearly Human』ツアーでの再現や『ア・カペラ』での一人多重録音へ直結する作品として『ヒーリング』が存在していたんだな、と思わせる瞬間が垣間見えました。『Flesh』とか『Shine』みたいな一見大袈裟な曲はアルバムでは左程聴き込めないタイプの曲だったんですが、こうしてライブで見せられると案外と曲自体はいい曲で、少し印象が変わって聴こえました。

コンパクトなステージで全体的に迫ってくる音はアルバムを増幅させた作品に昇華させていてとてもいい感じです。また往年の名作群とは違った魅力、ベクトルが示されていて好感が持てますね。いやあ、これも買ってよかった!

インタビューの後編は80分以上もあって見応えがありますが、今回は結構プライベートな話題にインタビュアーが斬り込む場面も多くて、トッドもしっかりそれに回答している。リヴ・タイラーの育ての親だったことも知りませんでしたし、息子さんが野球選手でトッドも嬉々としてそれを応援しているなんて話、また子供達への教育方針なんて話題にも触れたりします。トッドの人間性に迫る質問も多くて、端から見られる程変人じゃないこともよく分かりました。インタビュアーが優秀なんですね、これは。

トッドは「自分のために音楽をやっている」と言い切っていて、非常にそこは潔いと感じます。だからこそついて来てくれているファンを大切にしている。そんな姿勢も伝わるいい内容の映像作品でした。