カーネーション『天国と地獄 20周年記念コレクターズ・エディション』

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二度目の再発。三度目のリリース。この度3枚組で再発された『天国と地獄』はカーネーションの4枚目のアルバムです。前作『エレキング』で一皮むけたカーネーションが更なる高みに達したとてもいい作品だと思いますが、会社の同僚に聴かせた際に「高円寺系」と一刀両断されました。

その原因は何かと考えてみると、やはり1曲目の『オートバイ』にあるコーラスなんだと思うんですね。ミーターズのサンプリングが最初に聴こえて来た時に「カーネーションがサンプリングとは!何と突き抜けた曲調なんだろう」と驚いてその新展開にワクワクした記憶がありますが、ここで出てくる「tonight tonight」をはじめとする合いの手のコーラスのセンスが好みを一瞬で二分するんじゃないかと思うんです。ある種のしつこさがカーネーションの特徴でもあって、ここを愛らしいととるか生理的な拒否感と捉えるかで道が分かれてしまうのではないか。その後『体温と汗』から『未確認の愛情』『ハリケーン』と続く冒頭の4曲までいきっぱなしで怒濤の名曲が続いていくんですが、そこにはない要素がオープニングの『オートバイ』のコーラスに明確に表現されている。この異質感と閉じられた感じが扉を閉ざしてしまう。きっとそんなことが原因なんじゃないかと思いました。分かるかなあ、この感覚。

今回は前回の再発と違って曲間がオリジナルの間隔に戻っていて、これも今回の再発盤購入を決めたポイントです。前半部の間髪入れず続く流れはやはりこうじゃなくちゃ。細かいことですがとても大切ですよね。リマスターの音はオリジナルで混沌として潰れかけていた音の洪水が整理されてくっきりした印象を残します。楽器の音が個別にくっきり浮き出してくる感覚を覚えますね。要素が多い割に音圧も左程ではなくて聴いていて疲れないのもポイント。

オリジナルのリリースは92年。カーネーションには90年代を救ってもらいました。自分の耳が届く範囲で高品質な音楽を届けてくれるアーティストがいてくれたことが当時どんなに励みになったことか。その後傑作『GIRL FRIEND ARMY』を頂点として『booby』くらいまでは快進撃を続けるカーネーションですが、一時期はJ-WAVEでもよくかかることがあったとか。とにかくこの時期はグルーヴィーなんですよね。メンバー脱退を経て3ピースで復活して以後はまた別の魅力を携えた感じがあって、現在二人になってもまだ現役感バリバリで活動を続けているのは嬉しい限りです。ムーンライダーズの遺伝子をくむ貴重なアーティストとしてできるだけ長い期間活動して欲しいですね。

『愛のさざなみ』も絶品です。