Yellow Magic Orchestra『YMONHK』

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昨年のNHKスタジオライブの映像が商品化されました。久々に観ましたが安定感がありますね。昨年のライブの目玉は『テクノデリック』の再演にありました。

あのアルバムにあった肉体性が抑制されて表現される様はスリリングでした。そこにはエレクトロニカ路線での復活から連なる抑制と、ファンクに傾倒したリズムの応酬が混在していて非常に心地いい。何より『Seoul Music』での細野晴臣のベースがうねっている。映像よりも音の動きに耳を奪われる希有な演奏が楽しめます。よく動いているし、タメも効いていて非常に快適です。『灰色の段階』は演奏されたこと自体が奇跡ですが、そこには余りリズムの面白さはない。やっぱり人の曲の方がベースラインがよく動くんですね。歌いながらではないからかもしれませんが。

『Cue』の演奏での雲の上を飛ぶような感じはパシフィコ横浜からの連続性を感じさせてくれてこちらも非常にいい演奏ですが、これはコーネリアスのカバーに端を発している。あそこでの新解釈が再始動したYMOに及ぼした影響は計り知れないと思います。構築された音を浮遊感で脱構築する様が自然体の再演に大きなヒントを与えた。だから小山田圭吾はパーマネントなメンバーになっているんだと思います。音が鋭くてかつ温かいんですね。温もりがある。

先日のNO NUKESでの演奏は比較的初期のレパートリーをオーセンティックに演奏していて、特に新機軸を感じさせませんでした。今年のWORLD HAPPINESSがYMOのステージとしては最後になる可能性も示唆されていますので、来月どんなセットリストで仕掛けてくるか楽しみなところです。単純な懐古には終わって欲しくないなあ。

『テクノデリック』の再演はこの前にLAやサンフランシスコで初出でしたので、NHKでのライブで初披露されたのは『Absolute Ego Dance』だったと記憶しています。ここでの演奏もスピード感があっていいですね。こうした発掘の楽しみが必ずあって、その後のWORLD HAPPINESSでは『Fire Bird』という新曲も加えて来たのが昨年の展開でした。

最後の温泉ギャグはフルバージョンを収録。奥村さんの「はいいいえ」のくだりが一番笑えました。この時細野晴臣は既に肋骨を折っていたなんて・・。それでも笑いをとって去っていくこのサービス精神。立派だなあ。クールな演奏と笑いの演出の落差を一度に見せてパッケージ化するという手法は『増殖』以来の定番ですが、この遊び感覚が復活しているのもやっぱり見逃せない。そういった意味ではKIRINラガーのCMはYMOの本質を突いていましたね。愛情の伝わる表現だったと思います。

さて、今年は何か新展開があるんでしょうか。夏の唯一の楽しみとして8/12を心待ちにしようと思います。