小坂忠『はずかしそうに』

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『ありがとう』と『ほうろう』の間を繋ぐ73年作品。それにしても小坂忠のアルバムタイトルはひらがなが多いですね。

声は『ありがとう』なのに楽曲は『ほうろう』という不思議な作品で、この後に一皮むけて次の次元に突き抜ける直前の初々しさを携えている感じがします。曲がソウルフルになってきている。ハイファイセットによるコーラスや稀に差し込まれるブラスの音なんかが生まれ変わる予兆を示しています。ここで終わっていたら何てことはないんですが、この後の展開を知って聴くと「なるほどなあ」と思ってしまう。

フォージョーハーフはあっという間に解散してしまってメンバーはキャラメル・ママに合流していく。そんな細野晴臣陣営と離れて作った作品なのでインパクトは薄めになっています。ただ、ここでの世界観がなかったら次作の『ほうろう』はなかったんでしょうね。「歌」の魅力を追求することに目覚めるには後2年を要した訳ですが、ここで聴かれる萌芽のような清々しさは過渡期というより前兆を感じさせる。

何といっても元々持っている声の柔らかさや作る楽曲の何とも言えない郷愁が小坂忠という人の聴くものを包み込むような抱擁力を表していて、とっても落ち着く作品になっています。旅に合う音楽。そんな感じがしますね。時間軸を感じさせます。