小坂忠『モーニング』

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ビーチ・ボーイズの来日公演に後ろ髪をひかれつつ、77年リリースの作品。この作品は本人もお気に入りのようですね。確かにその後の復活作『People』に近い感触があります。

ここでまた細野晴臣との再会がありますが、密かに佐藤博のアレンジも冴えている。ティン・パン・アレイのいい部分を抜き出して来て、かつコンパクトにまとめたような感触です。『ほうろう』が時代が生んだ傑作だとすると、『モーニング』は等身大の佳作、とでもいいましょうか。音的には冒頭の『ボン・ボヤージ波止場』は山下達郎の『甘く危険な香り』のビートを先取りしたかのようですし、『フォーカスラブ』のキーボード音は『泰安洋行』の『エキゾチカ・ララバイ』のようです。それらが自然に響いてくる。

そしてラストは『上を向いて歩こう』のカバー。全体的にとても軽快。でも前作にあった迷いのようなものはなくて、跳ねているような気楽さと自然に出てくる日本のポップスの真髄のようなものがないまぜになって聴こえてくるように思えます。

この作品を境に小坂忠は一度表舞台から姿を消してゴスペルの世界に行く訳ですが、その後四半世紀を経て復活することになります。この時間感覚が凄いですね。でも77年の時点でもう自分の世界をあくまでマイペースに確立していた。気負わずにしっかりと足を地につけているところが素晴らしいなと思います。この「気負わない」感覚はまさに今の感覚なんですね。自分に出来ることをする。それを続けていく。休み休みマイペースで。沢山の人にサポートされながら。そんな晩年が過ごせたらさぞかし心地良いでしょう。ビーチ・ボーイズYMOもそんな感覚で今に至っているんじゃないかと思います。