小坂忠『People』

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世紀の変り目の2000年から2001年にかけて、細野晴臣周辺には密かなリユニオン・ブームがありました。久保田麻琴とのハリー&マック、ティン・パンの新作が00年、『イエロー・マジック・ショー』の放送が01年1月、そしてこの小坂忠の作品が01年11月です。

90年代の細野晴臣アンビエントの海に浴していましたが、本人曰く「陸に上がって来た」。そして小坂忠はゴスペルの世界から復帰して、前作から24年の時を経てポップスのフィールドに帰ってきました。その前にティン・パンへの客演や『イエロー・マジック・ショー』の客演等もありましたが、当の本作でとてもリラックスしたいい演奏を聴かせています。気負わない復活。でも音は粒が立っていてとてもいい作品になっています。この作品は買い直しになるんですが、実際その後何度も聴きました。いいアルバムなんですよ。

前作の『モーニング』を今回初めて聴いたんですが、そことの連続性も確かにある。ボーカルという意味で。前作で一種の到達点に達して、そこからゴスペルで鍛えた滋味を存分に活かした味わい深さを携えて、かつふらっと訪れたかのような気軽さで届けられた音。この作品はそうした流れの中に存在していたんですね。かつ細野晴臣の陸上復帰とも偶然に同期している。そこにはやはり世紀の変り目が関係しているんでしょう。過去を振り返るいい機会だったんじゃないかと思います。

実はその間に9.11があるんですが、このアルバムには直接的にその影響はないんだと思います。その後、細野晴臣が狭山でコンサートに出演するのが05年、その後パシフィコ横浜YMOが復活するのが07年、そしてワールド・ハピネスが08年に始まります。勿論その間にスケッチ・ショウの活動があった訳ですが。こうして流れを見てみると、その原点に00年や01年があることが分かります。小坂忠の四半世紀ぶりのこの作品もその原点のひとつに位置している。で、何度も言いますがこれがリラックスしていていい作品なんですね。リラックスといっても緩くはなくて、エッジは立っている。その上での余裕といいますか、やはり年季を感じさせます。

プロデュースは細野晴臣、参加メンバーは鈴木茂林立夫佐藤博浜口茂外也、とフルラインアップです。既に10年以上前ですが、まったく古びていないエヴァーグリーンな作品だと思います。