カーネーション『SWEET ROMANCE』

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カーネーションがまた変わった。

前作が震災前で、間にシングル『UTOPIA』を挟んでのリリースとなりますが、そのシングルで表現されていた捉えどころのない繊細な、浮遊感のある感触が全編を覆っています。復活後の3ピース体制(途中から2ピースになりましたが)での疾走感のあるライブ映えする骨太な路線は終りを告げました。ここで聴かれる音はとても儚さを含んでいるように思います。

まずボーカルが変わった。泣きすさぶような声とシャウトのない前に押してこない感じ。ディスクユニオンの店頭でかかっていた時にはカーネーションと分かるのに少し時間を要しました。この変化は何なのか。

次に楽器が増えた。冒頭から大谷能生のラップで始まるという意外性ですが、その大谷能生のサックスに加え、ピアノの音も多く入っている。ドラムは3ピース期の躍動感のある音とは異なりジャズ系の軽めなタッチです。ここで構成されるある意味での混沌は復活前の器楽的な実験を彷彿とさせます。勢いで押していくスタイルから叙情性に舵を切った。これは意外な展開でした。

『Gimme Something, I Need Your Lovin'』のような勢いのある曲もありますが、歌い方がこれまでと違います。頻繁に裏返る声と押すのではなく引いた感じの表現。歌詞に年齢を感じさせる内容が多く盛り込まれていることに触れたレビューも散見しますが、そこでカーネーション版の『最後の晩餐』かというとそうでもない。もう少し自然で儚いんですね。この変化をもってして傑作とは呼び難いと思います。一番の原因は歌い方にあると思うんですが、楽曲自体も過渡期的な雰囲気を醸し出している。この不安定な感じがカーネーション直枝政広の「今」なんでしょう。だとすれば2012年はやっぱりよって立つところのない不安定な時期ということになります。それはまさにそうだな。