87年リリースの実質ラスト・アルバム。その後、徹底して本格的な活動をしないところは潔くて、まるで山口百恵のようです。
何といってもXTCのアンディ・パートリッジがプロデュースで参加したという事実が大きい。最初にこのニュースを目にした時には「何ということだ」という驚きと期待が渦巻いて目眩がしそうでした。自分が好きなアーティストがこういう形で邂逅するというのは本当に嬉しいことです。ライナーのインタビューを読むと最初はゴドリー&クリームにオファーしたとのこと。これもびっくり仰天ですが、実現したらまた違ったものになっていたんでしょうね。とはいえ、数少ないアンディのプロデュース作にこの作品が数えられることになったというのは歴史的にも意義深いことです。
非常に重厚な音のするアルバムです。前作での軽やか、かつナチュラルに高みに達した作品からここでは本人が「集大成」と語る一種の形見のようなところへ辿り着いている。アンディの参加曲はコーラスの分厚さやデュークスを経たサイケデリック趣味、そして『スカイラーキング』発表後の成果であるデイヴ・グレゴリーのストリングス・アレンジ、と豪華な要素が満載で、XTC印の何とも言えないポップな色合いが封印されている。
なかなかプロデュースを引き受けない、人前に姿を見せないのでスタジオの前に人だかりが出来て「日本でいうと大滝詠一現る」といった感覚、等といったエピソードが語られるインタビューも楽しめましたが、街でばったりピーター・ガブリエルに会った、という話が面白かった。イギリスというのはミュージシャンが普通に日常的な生活の中に溶け込んでいて、当たり前のようにコミュニケーションしている、というエピソードが素敵ですね。流石にビートルズを生んだ国だけのことはある。
アンディ以外にもリチャード・トンプソンが参加していたり、ポール・キャラックがキーボードを弾いていたりと、今でもびっくりするような多彩かつ貴重なゲスト陣が参加していて、これはやはり一種の記念碑なんだな、という感じがします。冒頭からスウェーデン語のラップなんて今でもお目にかかれないですよ。