細野晴臣『Heavenly Music』

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細野晴臣の新作は全編がカバー曲。まるで初期ビートルズジョン・レノンの『ロックン・ロール』のように他人の楽曲を自分のものにしています。音の触感は『Flying Saucer 1947』『HoSoNoVa』と続いた路線で深みのあるいい音が鳴っている。安心して聴ける作品です。

しかし、実は想像していたものと少し異なりました。ライブでもやっている『The House of Blue Lights』のようなアップテンポの曲が多いのかと思っていましたが、意外とスローな落ち着いた曲が多い。今回の発売に合わせて前2作を通勤途中に聴き返しましたが、それと比べても若干ダウナーな印象を残します。これは意外だった。

本人達は至って楽しそうだし、ライナーの自己解説やインタビュー等を読んでも非常に興奮している様がうかがえますが、音の与える印象は『Radio Activity』に象徴的なようにレクイエムのようなものが伝わってきます。震災前には戻れない、そういった覚悟、というより滲み出てくる悲しさが温かい質感を伴って差し出されてくる。

坂本龍一吉田美奈子salyuとゲストは今回も多彩で、音を聴かなければとても派手な内容かと思わせる作品ですが、実はそこまで弾けていない。寸止めの魅力が全編に渡って繰り広げられる不思議なアルバムでした。

高田蓮のインタビューを見ると、最近のライブではロック色が濃くなってきているとのこと。一部『Radio Activity』にその片鱗がうかがえますが、細野自身もやりたいことが多くて止まらないようなので、今後の展開が益々楽しみになりますが、現時点で差し出された作品は気楽なものではなかった。この世にない音楽だから、メッセージには奥行きがある。その上、地に足のついた音楽。伝わるものは幾重にもレイヤーがあって、単純ではないんですね。深堀のできるアルバムだなあ、と思いました。