ムーンライダーズ『火の玉ボーイコンサート 2011.5.5 MOVIE』

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行こうと思っていて行けなかったムーンライダーズの『火の玉ボーイ』再現コンサートがDVD化されました。CDで音源だけは発売されていましたが、しばらく前にこの映像の上映会が開催されていたので「これは来るかな」と思っていたら予想通りの発売。目出たいことです。

まずは1枚目の収録曲全曲の再現。あがた森魚のナレーションが入る直前までを観ました。まずオープニングにびっくり。東京中低域は会場の後ろから登場したんですね。毎回ムーンライダーズはこうした会場を使った奇策を打ち出して来るので、観客もちょっとしたサプライズに嬉しくなります。

『火の玉ボーイ』は正直まだ聴き込みが足りなくて、『あの娘のラブレター』なんかも歴代アルバム1曲目の演奏コンサートで再発見したクチなんですが、その後の『スカンピン』といい歴史が一回りしたところで輝きを増した楽曲のように感じます。『塀の上で』なんかも含めて、再演で渋さが増していく。

今回はゲストも多彩なので、『火の玉ボーイ』での矢野顕子、徳武弘文、矢野誠、高田蓮などを加えた演奏の楽しそうな光景がとても心地良く映ります。音も厚くてカッコいいですね。今回再発見したのは『地中海地方の天気予報』です。非常に浮遊感があっていいメロディだったんだなあ。これは2ndの『シナ海』に近いものがあります。武川雅寛のバイオリンが細かく鳴り続ける。こんないい曲だったのか、と改めて思いました。『ウェディング・ソング』であがた森魚がボーカルで入ってくるところも非常にいいですね。あがた森魚の声は説得力があるので、スパイスとしては極上です。

さて後半に行ってみますか。

後半は高田蓮のソロから始まりますが、これが和やかでいいんですね。このコンサート唯一の若手ということでプレッシャーも相当だったと思いますが、リラックスしたいい演奏を聴かせてくれています。今月出る新作も楽しみですね。

その後は各メンバーがボーカルをとり、それぞれの楽曲を披露していきますが、やはり白井良明の『アルファビル』は浮いていました。どうしてもしっとりした楽曲の中では白井の勢いはそぐわない。1stの時にはメンバーではなかっただけに、少し寂しい思いもあるんだと思います。でもその後、ソロアルバムで爆発したからいいんじゃないかな。各ゲストの楽曲の中ではやはり矢野顕子が出色の出来。貫禄を感じますねえ。

ラストの『大寒町』は本当にいい。矢野顕子鈴木博文あがた森魚と歌い継ぐ様は語り継がれていく歴史のようで、つい涙腺が緩んでしまいます。本当にいい曲だなあ。鈴木博文の歌声は、最近の方が味わいがあってグッと来ますね。それでまたあがた森魚の声がいいんだ。これは30周年の野音でも感じたことですが。

ボーナス映像に「小さな灯の玉フリーギグ」が入っていたのは驚きです。元々このコンサートが震災で延期になった際に、鈴木慶一の呼びかけで行われたフリーコンサートの映像ですが、まさかここに収録されるとは思いませんでした。ほんの少しですが、贅沢な気分を味わわせてくれます。

この後、ムーンライダーズは無期限の活動停止に入っていく訳ですが、やはりその契機となったのは震災であり、この1stの再現だったのではないかと思います。35年という月日を経て歴史が一度循環した。そしてとてもいい状態で過去の音源が醗酵して再生された。ここで一度ムーンライダーズは時代と共にパッケージされたんですね。この映像を観ているととても落ち着いた気分を味わうことが出来ます。