カーネーション『YOUNG WISE MEN』

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88年リリースの実質的なファースト・アルバム。冒頭からスネアの音のみのリズムが繰り出されてそのまま突っ走ってしまう『ビーチで写真』。この勢いにはやられました。どうもこれは鈴木博文のアイディアだったようです。その後の『恋は底抜け』。この凝ったメロディ・センス、そして尚かつポップであるというバランス感覚に当時は諸手をあげて「やっと来た!」と歓喜した記憶があります。この2曲でこのアルバムは永久保存版になりました。

一時中古で買い直したこともありましたが、やはり音圧の低さに繰り返し聴くことはありませんでした。それがこうしてリマスターされたことは非常に喜ばしい。その上で、やはり初期故の「気楽さ」に目が行ってしまうのも確かです。

現在のカーネーションは紆余曲折を経た上でもう少しシリアスです。そして時代もシリアスであり、自分を取り巻く状況ももうそんな気楽な状態ではない。そうなってくると、88年のこの明るいサウンドが空虚に響いていってしまうのも確かです。『防波堤のJ』以外の曲群にはそうした哀しみが存在しない。これが初期に決定的に欠落しているものだと思います。

箱庭的な音像に感じるものはスタックリッジやパイロットといったビートルズ・フォロワーの寸止め感です。勿論それぞれいい味があって単独でも成立はそれなりにするんですが、XTCを手本にしたこのアルバムにも同様の寸止め感を感じてしまいます。決して悪くはないのでそこは誤解を承知で書くんですが、冒頭2曲の疾走感が全体に渡って持続しない、という印象は何度聴いても変わらない。その上で、全体としても今の環境には当然ながら合わなくなってきている、というのが実状だということです。

この作品の、それこそ「底抜け」のポップスを理屈抜きに、というより懐かしく楽しめるようになるのはいつなのか。もう少し時間に解決してもらわなければいけないようです。