焦りが消えた。これが最大の魅力かな。
高橋幸宏の新譜は自らのルーツを初めて見直した、バンド・サウンドの意欲作です。物腰は優しい。ただ、そこに漂うのはやっとここまで行き着いた自信と、時代に目配せして焦っている姿が微塵も見えない地に足のついた音楽。
時代の移り変わりは激しい。それについて行くために様々な情報を追いかけたり、常に一歩先へ行こうと努力したり、といった行動に出てしまうのは致し方ありません。ただ、ここまで年齢を重ねてくると、既に揺るぎない自信と審美眼が確立されているので、自然体でアンテナを張ることができる。また、変わるものと変わらないものが何なのかを見極めることができる。今回の新作に漂う穏やかさにはそんなことを感じました。尚かつバンド・サウンドとすることでメンバーのフレッシュネスも兼ね備えています。ここは大きい。
もう一点。これはある意味「カバー・アルバム」だと思います。
これまで高橋幸宏の作品には必ずといっていいほどカバー曲が1曲は収録されていました。ジョージ・ハリスン、トッド・ラングレン、ブライアン・フェリー、ニール・ヤング等々。今回のアルバムに感じるのはその雰囲気なんですね。すべて新曲なんですが、実は振る舞いは自らが影響を受けたアーティストの楽曲のオーラが全体を包んでいる。それを自分の解釈で再現するとこうなった、という意味では大きな意味でのカバー・アルバムといえなくもない。好きなことをやっているので、演奏も歌も溌剌としている訳です。
後半の『Signs』が一番好きかな。ドラムの入り方がカッコいいですね。その後の『World In A Maze』は堀江博久の曲ですが、これも複雑な曲で好きです。どちらもアクセントとしてコーラスが効いている。この辺りも魅力ですね。
日本にもスティーヴ・ウィンウッドやエリック・クラプトンのような渋みのあるアーティストが出始めた。ここへ来て何度目かのピークを迎えつつある高橋幸宏。吹っ切れた自然体の魅力満載のアルバムです。