キリンジ『TOUR 2013 ~LIVE at NHK HALL~』disc 1

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キリンジはある意味フリッパーズ・ギターのようだ。

弟の脱退に合わせて行われた本年4月のツアーを収録した映像作品がリリースされました。全33曲。全部は見切れないのでまずは1枚目からです。

キリンジは兄弟バンドでしたが、弟脱退後の1stステージを先月ワーハピで目撃しました。何とコトリンゴが加入して男女混成バンドに生まれ変わるという離れ業をやった訳ですが、キリンジの名前を引き継いだ兄の方は昨今のコーネリアスに近い。そしてソロで今後活動する弟の方は何となく小沢健二に近いような気がします。音楽というより振る舞いが。

ツアーの映像は演奏力も確かで見応えがありますが、ここはあえてこれまでのキリンジの活動を振り返ることでレビューに替えてみたいと思います。

【ワーナー期】
キリンジのデビューは98年。渋谷系が終焉を迎えていた時期にあたります。自分はその存在をミュージックマガジンで知りました。影響を受けたアーティストにスティーリー・ダンやフィフス・アベニュー・バンド等を挙げていたことにまずはピンと来ましたが、実際に1stの『ペーパードライヴァーズミュージック』を聴いてみるとこれが一発でやられる構築力。勿論バックを支えていた冨田恵一の貢献も大きいんですが、何より楽曲の魅力が凄かった。今回の映像作品にも初期の曲『野良の虹』や『風を撃て』等が収録されていますが、『かどわかされて』なんかぶっ飛んでしまいましたよ、当時。「この完成度は何だ」と。

その後に出た2ndの『47'45"』も名作。『Drive me crazy』『恋の祭典』『牡牛座ラプソディ』等震えが来る曲ばかりです。因にデビュー前にインディーズから出ていたシングル『冬のオルカ』も名盤で、収録曲の『水とテクノクラート』『休日ダイヤ』といった全3曲が全て鉄板です。この勢いはまずは3rdまで。『3』はシングル集のような趣ですが、必殺の『エイリアンズ』や『グッデイ・グッバイ』『千年紀末に降る雪は』といった後世に残る名曲が収録されています。このアルバムは結構売れてキリンジの転機になったようで、その後の若干の迷いを引き起こす原因ともなっていきます。『Fine』『OMNIBUS』なんかは地味ですよね。

【EMI期】
EMIに移籍してリリースされたオリジナルアルバムは03年の『For Beautiful Human Life』のみ。この作品のシリアスさは結構好きで、冒頭の『奴のシャツ』や『愛のCoda』は名曲だと思います。でも時期としてはやっぱり過渡期。ワーナー末期の混沌を引きずっているように見受けられます。

ただ、シングルで出た『YOU AND ME』や『十四時過ぎのカゲロウ』なんかはいい出来で、その後のコロンビア期の吹っ切れた感じが出てきている気がします。iRadioのKiKiKIRINJIが始まったのもこの時期ですね。『YOU AND ME』は今回の映像作品にも収録されています。ボコーダーみたいな音を口とギターで奏でる姿は面白い。こうやって音を出すのか、と思いました。これはスティーリー・ダンの『幻惑の摩天楼』でも聴ける音ですね。

コロムビア期】
移籍後初の作品は互いのソロ作。既にここから今回の離別の序章が始まっていました。その後リリースされた『DODECAGON』では打ち込みも多用されていて大変驚きましたが、冒頭の『Golden harvest』の複雑極まりないアレンジには舌を巻きました。実際これ以降のキリンジは吹っ切れた自然体の魅力が増してきていて、ユーモアのセンスもより直接的になり、更に後期はカントリー色も増していきます。実際、初期の頃のようなキラーチューンには若干欠けるきらいはあるんですが、キャッチーな『夏の光』や原点回帰のような『朝焼けは雨のきざし』のような曲もあって、よりバラエティ感が増していきました。ただ、初期の構築力が魅力だった自分にとっては少し迫力に欠ける感じもしていたのも事実です。その後、こうして兄弟別々の道を辿ることになる訳ですね。

原発を歌った『祈れ呪うな』は今回のライブで観ると実は音頭のリズムだったことが分かります。これは最近聴きまくっている大滝詠一山下達郎の新春放談で『ナイアガラ音頭』がよくかかっていたのを聴いたのも影響していますが、実はこの曲はナイアガラの再解釈だったのではないか、と感じました。

ということで長くなりましたが、明日またじっくりとdisc 2を堪能したいと思います。