坂本龍一『戦場のメリークリスマス 30th anniversary edition』disc 2

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ディスク2はアウトテイク集です。ライナーにもあるように録音ではかなり多くの音色を試行錯誤して作り上げたそうですので、こうした音の異なるバージョンが残っているとのこと。それにしてもまるで弦楽器のように聴こえている音がすべて電子楽器の処理によるものというのは驚くべきことです。

やはりこの作品を聴いて思うのは映像を喚起するということではなく、その当時の状況へ頭がいってしまうということ。これは個人的な問題なので汎用性はないかもしれませんが、YMO
とその時代に少年期を過ごした世代としては、当時の浮かれていた世相とそこに嬉々として追従していた自分の環境に思いをはせてしまいます。当時は中学生でしたが、基本は両親の世話になって生きていた。しかし今では高齢の親をこちらが支える役割に逆転している。その時に、自分は依存心をなくして親身になれるのか、といった話。明日が父の一周忌だから余計にそう思うのかもしれませんね。

世代は自然と変わっていくもの。そこに特別な感情を紐づけるのは禁物ですが、どうしても時間が30年もまわってしまうと隔世の感があって、当時と今とを比較してしまう。それは単に文化的な状況だけではなく、自分との関係性に絡めて考えざるを得ない。時間が経つ、とか大袈裟に言うと生きていくというのは継続性の問題なので、感情とは別のものです。感情というのはむしろ時間によって後から解釈として発生するものなのかもしれません。これはビッグデータを議論する時にいつも出てくるイシューなんですが、鈴木慶一的に言えば記録と記憶という奴ですね。

2枚目の音の方は比較的短い断片も多く収録されていて、音楽というよりは試作集といった感がありますので真剣に聴くとはぐらかされてしまいますが、やはり再発予定の『Coda』を聴いて、かつ今の坂本龍一のピアノの音と聴き比べてみるのがひとつの答になるように思います。浅田彰も言うようにピアノのタッチが優しく柔らかくなっているのが今の坂本龍一の特徴なんですね。それは年齢的なものと無縁ではないし、ここまで長く活動を続けて来たからこその出来事なんだという風に思います。その差分に意味がある。