奥田民生『O.T. Come Home』

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3年ぶりの新作ですが非常にいい出来ですね。前作の単独公開録音から一転、スタジオに入って、やはり単独で作り上げた作品。たったひとりでグルーヴを出していく。

奥田民生石野卓球もそうですが、同年代のアーティストは緩やかに原点回帰していて、上の世代のような「まだまだ現役」感が表面化していないで自然に自らのルーツに戻っているところに好感が持てます。この場合、新機軸が少なくなるのでその分の刺激は薄れるんですが、端的に曲がいいというところがポイントで、ごくごく自然に楽に音楽を淡々と紡いでいく、続けているところがいい。

前半と後半に盛り上がりを持ってくる形で中間が少しダレる展開ですが、この辺りはソロ初期の頃からあんまり変わらない。ひとりでやっているので冒頭に書いたようにグルーヴは閉塞感も出るんですが、それがまた職人のようでいいですね。リミッターの効いた音はとても心地良く響いてきます。

『OTRL』ではラス前の『解体ショー』がとってもいい曲で、奥田民生の場合はラス前にドラを配置するのかな、と思っていましたが今回は『フリーザー』ですね。短いけれどもいい曲です。ここへ来てポップになっていっているというのはとても健康的で、メッセージなんてない、過剰に深読みすることを嫌う洒脱なスタンスには敬意を表したい。何より同世代のヒーローですから、頑張っていてくれることだけですべての曲が応援歌になってしまいます。自信もあるんですね、当然。

難点を敢えて挙げるとするなら裏返って言えば突き抜けていないこと。これは一時期のXTCにも言われた箱庭ポップという表現。バンドじゃないので当然だし、だからといって後期のXTCが悪かったかというとあれはあれで良かったと思いますが、奥田民生の場合もうちょっとメジャー感が漂っているのでもっといけるかな、と思ってしまいます。非常にマニアックなことをやりながら第一線に留まるというのは貴重な立ち位置ですが、そこで更に突き抜けたらもう伝説になりますね。