XTC『Skylarking : Corrected Polarity Edition』

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違いは低音かな・・。

86年リリースのトッド・ラングレンプロデュース作品が極性の違いを修正して再リリースされました。ジャケットも当初通りの発禁寸前の代物。最大の興味は音にありましたが、正直言って左程の違いは感じられなかったのが実状です。

何といっても既に現行盤が体の一部になっているので、すっかり慣れ親しんだ音に「このアルバムはこういうもんだ」と思っていましたので、30年弱経って「これが正規盤です」と言われても「そりゃないよ」と思ってしまうのも人情です。とはいえアンディ先生の思し召しですのできちんと聴かねばならない。そして注意深く聴いてみると、高音と中間音が幾分抑制されて、低音がくっきりしているように聴こえました。ベースラインがはっきり聴き取れる。その分、アコギの音なんかが奥に行ったような感じです。ある意味シャカシャカした音が空間を埋めていた印象の作品なだけに、少し落ち着いた感触を受けました。音圧も当然ビートルズ以降の低めの技。

『Dear God』が『Dying』の前に曲間を繋げて入っているのも驚きです。これを正規と見なすのは少し抵抗がありますが、新しい聴き方をここへ来て提示してもらったのは有り難く受け止めねばなりません。以前仕事で北米に行った際に、向こうの人に「好きなアーティストは?」と聞かれて「XTC」と答えると「Dear God?」と即座に返されたことがありますが、それ位この曲は米国でメジャーなんですね。でも自分の印象は違いました。

何といっても当時先行で12インチでリリースされたシングル『Grass』の衝撃。新しいことは従来型のスタンダードな音で表現できるんだ、というカウンターを食らったような思いがありました。それがアルバムでは1曲目の『Summer's Cauldron』と繋がっているという衝撃が更に待ち受けている訳ですが・・。そしてB面の『Extravert』、このカッコいいこと!それに比べて『Dear God』はとても地味に聴こえました。でもこの曲が一般受けするんですよねえ。世の中は分かりません。

トッド・ラングレンを詳しく聴き込んでいくのはもう少し後になってからになるんですが、実際XTCに新たな風を吹き込んでくれたような気がして当初は嬉しく感じていました。しかし実際にはアンディとの確執が報じられ、その後の12インチにはお蔵入りになったデモバージョンが数多く収録されていきます。しかしこれもまた極上。『The Meeting Place』の12インチに収録された『Terrorism』『Let's Make A Den』『The Troubles』は何度聴いたか分かりません。結果的にこの時期の作品群は幸か不幸かトータルで楽しませてくれるものとなりました。

実際の極性の件については真偽の程は定かではありませんが、最終的に『Dear God』をアルバムから外すこととなってマスタリングのやり直しをした際に起きた事件とのこと。これはトッドのコメントですが、それが事実ならここでも『Dear God』が絡んでいたことになります。そして最終的にはアルバムの物語の中に納まってしまう。何という数奇な運命を辿った作品なんでしょうか。単純にいい曲が多い素敵な作品なので普通に聴くだけでもOKなんですが、付随する出来事が更に作品を増幅させてしまう。不思議なアルバムです。

で、一番好きな曲は『Earn Enough For Us』。いつ聴いても鳥肌が立ちます。