サンディー『アイルマタ』

f:id:tyunne:20181101205948j:plain

93年リリースの本作に気付いたのは先日聴いたニュー・オーダーの『Republic』の発売時のミュージック・マガジンを見ていた時でした。同月に発売されていたんですね。何故に買い逃していたか。恐らく内容がダンドゥットのカバーで占められていたからだと思います。

90年代のサンディーは絶好調で、『マーシー』『パシフィカ』と立て続けに傑作をものにしていました。それに続く作品はてっきり『ドリーム・キャッチャー』だと思い込んでいたんですが、実は『パシフィカ』の次にこれが出ていた。ただ作品の方向性としては先に触れたインドネシアの音楽、ダンドゥットをカバーするというものだったため、当時の作品で表現されていたアジアとテクノポップの融合といったものとは趣を異にする内容でした。従って連続性という意味では一歩譲るところもあるんですが、実際には『マーシー』なんかにも同趣向の楽曲が収録されていますので、繋がりがない訳ではない。何よりこの時期のサンディーと久保田麻琴の突っ走り方は全開なので、やはりここは押さえないといけないな、と探したところもう廃盤、という状況でした。

そこで調べてみるとどうも渋谷のレコファンに在庫がありそうだ、ということで行ってみました。そうしたらこれが凄かった。初めて足を運びましたが圧倒的な在庫量です。これは新宿のディスクユニオン中古センターを越えてるなあ、ということでいずれ時間を作ってじっくりと漁りに行こうと思っています。サンディーなんかはちゃんとコーナーもある。これは失礼ながら稀なことですよ。それも在庫量のなせる技なんだと思います。

で、肝心の内容の方ですがほぼ予想通り。演奏は生楽器が中心ではありますが、当時のうねるようなアジアのリズムが存分に味わえます。この辺りの突然変異的なセンス。ワールド・ミュージックと当時呼ばれた流行モノの音ではなく、完全に現地化しつつ客観的解釈を加えてかつポップに仕上げていくスタンスは久保田麻琴としては一貫したアプローチですが時代的には唯一無二の出来事だと思います。決してメジャーな流れではありませんでしたが、時代にしっかりとその痕跡を残した。古びない上に独自性でも群を抜いていると思います。このミッシングリンクを埋められて良かった。その間20年弱の月日が流れているというのも驚いてしまいます。坂本慎太郎ではないですが時間というのは不思議なものですね。