冨田ラボ『Shipahead』

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最近ドナルド・フェイゲンの『ナイトフライ』に関する書籍を出して話題を呼んでいる冨田ラボの3rd。これはしばらくスルーしていましたが、乗換駅の中古屋で見かけて手にしました。キリンジのプロデューサーとして出会ってからはや10年近く。すっかり売れっ子アレンジャーとなった冨田恵一ですが、本人自身の作品の完成度はある意味耳を遠ざける効果も持っていて、楽曲によってゲストボーカルを変えていくアプローチもここへ来て定着しつつリスナーの拡大には歯止めがかかっているようにも思います。

そもそも本人自身のボーカルでもある程度はクオリティを担保できる。但し話題性の喚起に欠けるきらいがあるのと恐らくは企画会議上の成り行きでその体制の変化を良しとしない雰囲気がヴァリエーションを拒否し続けてきた。そんな風に捉えているんですがどうでしょうか。本作でShip3部作は終了し、ボックスも作って次作は複数ボーカルでの歌まわしに挑戦、といった流れですが、耳の肥えたリスナーと一般リスナーの狭間に嵌ってしまって結果的にブレイクしないというサイクルに陥っているような気がします。

佐野元春鈴木慶一吉田美奈子といったビッグネームを惜しみなく投入し、更なる発展を図っていますが印象は地味。更にクオリティの高さが壁を作って先程来申し上げている微妙な隘路に突入しているというパラノイア。謎の航海は辿り着くところを見失いかけているようにも感じます。