ジョニ・ミッチェル『The Complete Geffen Recordings』『恋を駆ける女』

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やっと見つけたゲフィン時代のBOX。これで80年代のミッシング・リンクを埋めることが出来ました。巻頭のジョニのコメントを読むと、大分ゲフィンに関しては恨みつらみがあるようで、原盤権を返せと直談判したといった話が強烈です。再発を全然しないことに怒ってたんですね。今でもこの時期の作品は手に入りにくいですが、こうしたことがレコード会社への不信に繋がって、一時期は制作活動から身を引いたところまで行ったというのは残念なことです。このBOXも言われている通り輸入ものにありがちな中途半端な紙ジャケ仕様で、きちんと買った人は確かに怒るのも無理はない。自分は中古だからまだいいですが。

ともあれ、きちんと80年代のジョニ・ミッチェルが復習できるというのは喜ばしいことです。で、1枚目は82年リリース。前作『ミンガス』から3年が経過していますが、ジャコ・パストリアスとの邂逅に終りを告げて、新たなパートナーと作り始めた作品は本当に溌剌としていますし、この時期にこんな成熟した美しい作品をリリースしていたというのは驚きです。82年というと自分はどっぷりとテクノポップだった頃ですから、こんな渋い作品は知るべくもない。同時代の音からしても大分距離があって、ある意味70年代を引きずっているとも言えますがクオリティは半端じゃない程高いです。

考えてみれば80年代になって急速に作曲が変わるはずもなく、前作からのジャジーな流れもきちんと踏襲されています。とても複雑なことをサラッと成し遂げている。やはり次作の打ち込みの印象が強いからか、まとめて別路線として捉えてしまうのは勿体ない、というよりこの作品は異なった位置にある。『ミンガス』の張りつめた緊張感から脱して幸福感溢れる躍動と常人の域を超えたクオリティで他の追随を許さない高みまで達していると思います。それで次にトーマス・ドルビーと組むというんだから凄い。