坂本龍一『左うでの夢』

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リマスター再発された坂本龍一の3rd。実は一番好きかもしれません。代表作としては『音楽図鑑』になるでしょうし、こちらも3月に再発されるようですが、本作のくすんだポップ感覚がどうしても耳から離れません。発売されたのが81年で『BGM』と『テクノデリック』の狭間ですので、当然のことながら名作多発の時期です。センス爆発の頃の作品ですので、自然と滲み出てくるクオリティが耳に入り込んでくるのかもしれません。

発売当時は中学生でしたのでそうそう何枚もアルバムを買えるはずもなく、この作品も貸しレコード屋で借りて長らくテープで聴いていました。それでも記憶には鮮明に残っています。

一番の聴きどころは「The Garden of Poppies」から「Relache」への流れだと思います。特に「Relache」での高橋幸宏のドラムは無敵。このタメの効いたドラミングとフィルの素晴らしさは唯一無二だと思います。何度聴いても体温が上がります。

曲単位でいくと「Venezia」がエポックメイキングで、かしぶち哲郎の退廃的な詩に美しいメロディが合わさって素晴らしい楽曲に仕上がっています。坂本龍一がポップスとしてメロディアスな方向性を世に提示した最初の瞬間だったのではないでしょうか。

とはいえ、全体としてくすんでいる、醒めている感覚が漂っているのも魅力のひとつです。決してベタつかない。その辺りが坂本龍一らしさだと考えています。

リマスターによって音が変化したかというと左程でもないように感じました。音圧は世の流れに沿って抑えめですし、細かな部分も一聴して新たな発見はありませんでした。オリジナルに忠実に仕上げた印象です。但し、ボーナストラックのインストバージョンはマスターが違うようですので、ちょっと楽しみです。