坂本龍一『音楽図鑑 2015 Edition』

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『左うでの夢』に続いて『音楽図鑑』もリマスター盤が発売されました。しかもアウトテイク集との2枚組。制作に長い時間をかけたこともあり、発売時の情報では少なくとも30曲以上の中から厳選した楽曲が納められた、との話もありましたので、こうした形で未発表曲が日の目を見るのは目出たい限りです。当時の楽曲もくまなく押さえてあるので、本当の意味で「図鑑」のようになりましたね。

まずは本編の方ですが、解説にもあるように制作中にフェアライトCMIが導入されたことが大きな転機になっています。発売時に聴いた印象からずっと変わらないのはA面がAOR的、B面が打ち込みのクールな音色、というものでしたが、実際にも最初の4曲はフェアライト導入前、後半の曲は導入後、といった形で音色や楽曲の作り方まで機材の影響を受けている、とのことですので、ここへ来てやっと合点がいった、という感じです。

長い間聴いてきて意識していませんでしたが、随所に山下達郎のギターが入っているんですね。「羽の林で」が特に印象的ですが、これまで余り考えたことがありませんでした。大々的にフィーチャーするというよりひとつのパーツとしてしっかり楽曲に納まっているので、掘り下げて聴いていなかったのですが、古い友人の再会という意味合いも含めて感慨深いものがあります。

『完璧盤』同様、「君について」も収録されていますが、これは当時日本生命のCM曲として正式にはリリースされなかったものです。特典ディスクとしてのみ発表されていました。その後中古屋で入手した時は非常に嬉しかった記憶がありますが、内容的には当時シングルカットしてもおかしくない程の楽曲です。それをあえてしないところが凄いですね。当時のレコードに収録されていた楽曲も今回は本編に追加されています。

ボーナスディスクの未発表曲はある意味習作の域を出ないところもありますが、「M2 BILL」「M23 BALLAD」等は楽曲としてほぼ完成の一歩手前まで来ています。こうした完成形に近い未発表曲が沢山収録されていることを期待していましたが、やはり途中で制作を止めてしまったものも多くあったようで、そこまでには至っていませんでした。「両眼微笑」もデモテープ集に収録されたものより前の段階でのバージョンになっています。

「SELF PORTRAIT」は吉田美奈子のコーラスが入っていた時のバージョンが収録されています。本編の楽曲よりもよりロマンチックに音が響いている印象ですが、それにしてもこのコーラスをフェアライトの音に置き換えてしまうというのが凄いですね。話題性よりも時代性を選択する。参加した本人は複雑だったんじゃないかとも思いますが、それが創作というものの厳しさかもしれませんね。

音圧はこれまでの再発同様低めになっています。不必要にうるさくしないのはエンジニアの美学かと思いますが、実際どの程度新しい音が発見できるかはもう少し音量を上げて聴いてみたいと思っています。それにしてもやっとこうしてMIDI時代の作品がリマスターされて世に出始めて来たことは嬉しい限りです。当時の記憶が蘇ってきますね。今回の制作に関わった方に僭越ながら感謝したいと思っております。