YMO『WORLD TOUR 1980』

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ああ、大分違うんだ。音が攻めてる。

1年経って、本格的に欧米各国を廻ったワールドツアーの音源。一聴して音が暗いな、と思いました。鳴っているノイズも攻めてる音が多い。時期的には『BGM』録音直前、『B-2 UNIT』発売直後ということでヒリヒリした緊張感が漂う時期のライブとなります。

YMOのライブというと人民服の映像ばかりが流されますが、実はこのYシャツの頃の音がテクノポップとしては完成形に近い、と認識を新たにしました。そうか、だからYMOのライブはピンとこなかったんですね。フュージョン色が濃いのは79年までで、80年には完全に中期の序章となっている。そして怒濤の81年に突入していく訳です。

しかしこのボックスセットはやはりこの後はウィンターライブ、コンプリート・サーヴィスとすべきだったのではないでしょうか。権利の問題か、それとも単発売りを想定して外したのか。きっと後者でしょう。そしてメンバーのアナウンスで水を差された、と。ソニーらしいと思います。音楽ソフトに対する愛情が親会社のビジネスに巻き込まれて歪んでしまう。余り好きではないメーカーです。

ギターに大村憲司が参加している点も見逃せません。ギタリストの違いがこうも印象を変えるのか、と驚かされますが、全体的な音の締まりも含めて絶頂前夜という感じがしますね。これはいい音源でした。

「All You Need Is Love」のカバーも初めて聴きました。ジミヘンのパロディから始まってアジアンテイストで粘っこく歌う、という秀逸なこの時期ならではのカバーだと思います。「Day Tripper」のディーヴォテイストとはまた異なるビートルズへのオマージュ。YMOはよくビートルズをカバーしますが、やっぱり高橋幸宏が大好きなんでしょうね。

大村憲司や各メンバーのソロも織り交ぜたセットリストはバラバラになり始めたこのグループの緊張関係を物語るようで、当時のパブリックプレッシャーを想起させます。坂本龍一なんかは統合失調症一歩手前だったんじゃないかなあ。お風呂のお湯の音が自分を呼ぶ声に聴こえたそうですので。ストレスというのは恐ろしいですね。