オリジナル・ラブ『ラヴァーマン』

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変化する人、田島貴男が次に選んだのはひとり再結成でした。

風の歌を聴け』のリズム隊を再度招集した新作はリードトラックのタイトル曲からして並々ならぬ気合いが感じられましたが、届けられた新作は直球勝負の作品でした。『白熱』以降の動向がとても気になっていたんですが、このあたりは音楽ビジネスの変化に対応したプロセスだったことが本人のインタビュー等で明らかになって来ています。

要するに自分のレコード会社を立ち上げて一人でビジネスを廻し始めた。その最初の成果がすべてを一人でこなした『白熱』だったわけで、さすがにきつかったので次作ではエンジニアと共に制作した。そして今回はミュージシャンも呼んだ、ということになります。ただ、基本は独り。ここにヒントがある。

CDが売れない中、音楽ビジネスの中心はライブに移行しつつあります。そこでのグッズ収入等、関連商品の利益で活動費をまかなっていくしかない。音楽の聴かれ方はここ数日の定額制音楽配信サービスの相次ぐ発表に顕著なように益々総体として捉えられるようになって来ています。LINEに至っては音楽をコミュニケーションの手段として活用するところまで落とし込んできました。それはそれで時代の流れなので仕方ないですが、これはミュージシャンにとっては利益額が減少していく過程でもある。すなわち従来型の、楽曲を制作してパッケージ化してリリースし、そこから儲けを出していく形での活動では立ち行かなくなって来ていることを意味します。だとするならレコード会社に粗利を抜かれるより一人でやった方が効率がいい訳です。

しかしそれは大変なことで、アーティスト側は作品を作ることに没頭できなくなる。制作過程のマネジメントやその後のプロモーションも含めた活動全般に対してすべてをコントロールしていくことには相当なパワーがかかるはずで、これが作品の質に微妙に影響を及ぼしていくのではないかと思うのです。普通は乗り切れない。

今回田島貴男はストレートにそれをやってのけた。それは自然体に近づいているからだと思います。妙なこだわりは捨てて素直にいい曲を書いて演奏して仲間と共にグルーヴを産み出して、と至極真っ当な過程を踏んでの発売。欲を言えばもう少し他人に委ねるところがあってもいいように思いますが、まずはひとつ今の環境下での成果をものにした。ここに往年の粘り気が出てくれば言うことなしだと思います。応援しているので頑張って欲しいです。