ザ・ビートニクス『EXITENTIALIST A GO GO -ビートで行こう-』

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87年にこの2ndが出た時には、まさか復活するとは思わなかったので、果たしてどんな音が出て来るのか期待して聴いた記憶があります。結果としては1stとは似ても似つかずポップなもので拍子抜けをくらいました。ビートニクスというと先鋭的なイメージが固定化されていたので、まさかこんな形で帰ってくるとは夢にも思わなかった。ですので、実は第一印象は軽薄なものでした。

ところが、歳をとってくるとこれがジワジワと効いてくる。90年代の高橋幸宏もそうですが、年齢による深みと悩みをサラッと軽やかに音にする技術と、表面的にはポップなのに奥深い哀しみが内包されている。かつ聴きやすいので自分が疲弊している時にも救いになる、という多面的な効果があるいい作品に育っていきました。「ちょっとツラインダ」なんて本当は物凄く辛いはずなのに「ちょっと」で表現してしまう。このセンスが洒落ていてカッコいいですね。

今回のリマスターでどこまで変わるか楽しみでしたが、当初抱いていた平坦な音の印象からガラッと変わって奥行きのある音が聴こえてきました。細部もよく聴こえますし、かつ全体的に立体感がある。音色が比較的軽めの音が多いのでちょっと時代的になってしまいがちなところをカバーする素晴らしい出来でした。

実はビートニクスの中では一番好きかもしれない「大切な言葉は一つ「まだ君が好き」」はワールドハピネスでも演奏してくれてとても嬉しかったんですが、この曲に限らず「Common Man」等、鈴木慶一の好調ぶりは抜群です。何故こんなにいいのか考えてみましたが、『アニマル・インデックス』『Don't Trust Over Thirty』を経たムーンライダーズ自体の好調ぶりが後を引いていたんだろうと今では思います。「大切な言葉は一つ~」なんか「GYM」みたいだもんね。

ボーナストラックは何と本作リリース前の86年にいち早く披露されたライブ録音。何といっても素晴らしいのはバックの演奏がムーンライダーズだってことです。「ちょっとツラインダ」での武川雅寛のバイオリンは本当に憂いがあっていい演奏です。つくづくいいミュージシャンだなと実感しました。