記録と記憶。
このモチーフは80年代に「歩いて、車で、スプートニクで」にて示されたものでしたが、今回久々のセルフプロデュースと自身の活動45周年を記念して制作されたソロアルバムのタイトルに起用されました。最初は気付きませんでしたが、本人のインタビューで言及されているのを見て、「なるほど、そうか」と納得。あの曲もいい曲でしたが、何よりこのモチーフが賞味期限が長い。仕事でも使わしてもらった記憶があります。
音の印象はムーンライダーズ後期の感触を残していて、思った程は重くありませんでした。とはいっても混沌とはしていますが。久々に一度聴いただけでは分からない複雑さを内包しているアルバムに出会った気がします。80年代のムーンライダーズもそうでしたし、XTCの一連の諸作もそうでしたが、要するに奥が深い、要素が多いんですね。
元々はインストアルバムとして制作を開始した、ということですので、そこかしこに片鱗が見え隠れしますし、特典で付いてきたCD-Rはインストです。これで来られたら恐らく難解なアルバムになっていたでしょうが、スタッフの熱い要望でボーカル入りとなったそうですので、周囲の判断は正しかったと思います。皆、鈴木慶一のボーカルも含めた曲を聴きたいんですよね。
適度にポップさを備えているのは、ヘイト船長3部作の重苦しさを引きずらない感じで安心しました。やはりカット&ペーストで中身をいじり過ぎるのは良くない。ただでさえ複雑な楽曲を更に混沌とさせてしまう。そんな印象があの3部作にはありましたが、今回は少し突き抜けている。この社会性がムーンライダーズにもあったし、それを今回は自問自答しながら作っている。
で、結果としては複雑骨折みたいな多層性を持った作品に仕上がっています。聴く程に味が出てくるタイプの作品だと思いますので、価値に気付く時間があと何年か続くような気がしてなりません。