名盤の名を恣にしている77年リリース作。結局はタイトル曲のスティーヴ・ガッドのドラムに尽きるような気がします。
次作『ガウチョ』程の張りつめた感じもなく、複雑でありかつ自然な旋律がじっくりと体を裂いていきます。音楽というものは一時の安らぎを与えるものでもあり、ただ単に聴いているだけでも様々な情景や今という時間を味わうための一服の清涼剤ともなる訳ですが、そこに割って入ってくる緊張感がどこかに必要で、このアルバムの場合それが「Aja」のドラムだったりします。
「Peg」でのギターもそう。ループが永遠に繰り返されている中で切り裂くように入るギターソロは試行錯誤の末に選択されたことが後のドキュメンタリーで二人から語られていましたが、こうしたパートパートで最良の演奏を選んでいく贅を尽くしたやり方がコンダクターとしてのドナルド・フェイゲン、ウォルター・ベッカーの審美眼の実力になります。当然長くは続かない。
音楽としては実は前作の『幻想の摩天楼』の方が好きだったりしますが。