ムーンライダーズ『Don't Trust Over Thirty』

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86年というムーンライダーズにとって怒濤の一年はこの10周年記念アルバムでほぼ幕を閉じたといっても過言ではないでしょう。鈴木慶一鬱病が悪化し、かしぶち哲郎は入院してしまう。12人編成のスーパームーンライダーズでの強烈なライブ活動、その後5年間の活動休止、と凄まじい事態がいっぺんに起こってしまいました。

当時このアルバムを聴いて「これは人に勧められないなあ」と思った覚えがあります。余りにも特異過ぎて、かつ重々しい。解説付きでないと何でこうなっているのか分からないだろうな、と感じていました。勿論「ボクハナク」「A FROZEN GIRL, A BOY IN LOVE」「9月の海はクラゲの海」といった名曲も含まれているんですが、人気の高いタイトル曲の「Don't Trust Anyone Over 30」の変態的なコーラスや「何だ?この、ユーウツは!!」「マニアの受難」といったほぼ病気な楽曲を経緯なしで聴いて受け入れられるとは到底思えなかった。そのくらいこのアルバムは「濃い」作品です。

ボーナストラックに「CLINIKA」のボーカルバージョンが収録されたのは喜ばしいことです。存在は知っていましたが、こうして聴くとなるほど本編は未完成だったんだな、と再認識させられます。つくづく入院が惜しい。また12インチの『夏の日のオーガズム』がこちらの方に収録されたのは、以前の『The Worst of MOONRIDERS』に追加されているよりもスタジオ盤で揃えたという意味で自然だと思います。ここへ来て完全版になりましたね。

重いアルバムなんですが、聴き返すことの多い奥の深い作品でもあって、間違いなくキャリアの頂点を極めた時期の記録だと思います。丁寧な再発に感謝します。