10cc『How Dear You!』

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ムーンライダーズから椎名和夫が脱退する際の決め手となったのは、今後のバンドの方向性が10ccかスティーリー・ダンか、との問いに10ccだと鈴木慶一が答えたことがきっかけになっている、という話があります。同時期に活躍した2つのバンドの中で、よりテクニック寄りの方向がスティーリー・ダンだとしたら、10ccはよりコンセプチャルで映画的。76年リリースの本作はまるで『ガウチョ』のようなバンド末期感があって、バランスを保つ限界に来ていた、ともいえそうです。

とはいえ緊張感に包まれてヒリヒリしているかというとそんなことはなくて、あくまで音は温かみのあるものです。ポップスへの対峙の仕方が異なるんですね。このアルバム以降、ゴドリー&クリームは10ccと袂を分かつことになりますが、その後の活躍は周知の通りです。しかしながらポップスとしての聴きやすさはやはり10cc時代に一歩譲るところがあって、より実験性を高めていく割に楽曲の魅力度が追いつかない状況が続くことになります。一方で本家10ccの方は甘さが前面に立ち過ぎてこちらも急速に失速していく。バンドというのは個性の同居がもたらすバランス感に依存する面が大きいことを身を以て示したのが10ccというバンドだったともいえそうです。